UNI-LCJとベトナム労働総同盟(VGCL)及びUNI-Aproの共同セミナーは、2000年から2008年まで毎年行われてきたが、今回4年ぶりにハノイで開催された。直前に国会が解散し衆院選日程が決まったことから、關団長(損保労連委員長)が急遽出席できなくなり、寺嶋JP労組中執が代役を務めた。
この間、2006年末のWTO加盟以降、市場経済の開放が加速し、ビジネスチャンスが生まれた一方で、一般労働者は目まぐるしく変化する労働環境とともに近代化と自由化、競争に直面するようになった。また、ベトナムとは異なる労使関係を持つ外資企業の参入が増加し、労働争議が顕在化する中、協調的労使関係を促進する必要性が高まっている。日本からは以下の講師が出席した。
(ICTS部会)情報労連/NTT労組中執 水野和人
(商業部会)UAゼンセン中執 石川博之
UAゼンセン流通部門食品関連部会運営委員 深瀬貴央
自動車総連労働法制局局長 吉田真之
自動車総連国際局部長 藤冨健一
(金融部会)損保労連中執/あいおいニッセイ同和労組執行委員長 望月壮一郎
(郵便・ロジスティクス部会)JP労組中執 寺嶋智子
(UNI-LCJ)事務局次長 小川陽子
ベトナムからはVGCLをはじめ、銀行労組、工業流通労組(VUIT)、郵電労組(VNUPTW)、商業ネットワークのメトロC&C労組、ビッグC労組、コープマート労組の他、農業・農村開発労組、建設労組、医療労組、社会保険労組などから約40人が出席した。
開会式では、VGCL国際局のタン局長が4年ぶりのUNI-LCJ代表団来越を歓迎した。寺嶋団長は「以前は空港から農村風景が広がっていたと聞くが、今は建設ラッシュで住宅や工場団地に様変わりしている。生活環境が激変する中、VGCLの役割は重大だ。日本も高度成長期、パートナーシップに基づく労使関係を構築し、転換期を切り抜けた。低賃金が優位性を持つ時代から魅力ある消費市場の時代へと転換させ、バランスの取れた経済発展に向けて、日本の経験が役立つことを期待する」と挨拶した。
ベトナム側の発表は以下の通り。
労働・傷病兵・社会省(MOLISA)労使関係強化センター(CIRD)のグェン・マン・グォン所長は、2012年6月に改正された労働法及び労働組合法における労使関係の主な変更点を説明した。労組の役割として協約締結だけでなく、締結に至るまでの協議と対話のプロセスを重視し義務化したこと、労働紛争時の仲裁機関の能力に問題があり活用されなかったので、和解委員の役割を明確化したこと、ストの定義の明確化などである。
VUITのホー・フイ・ザオ氏は、ベトナムの労使関係の現状と課題を説明した。問題が発生した際、組合は交渉や協議を経ず、すぐストを実施しがちだが、農村部からの出稼ぎ労働者がルールに馴染んでいないこと、組合幹部も法の理解が不十分であること、対話・交渉スキルが無いこと、集団の力を悪用することなど労働者側の原因や、良い労働環境を提供しないとか、外資経営側との文化の違いによる摩擦などのためである。協調的な労使関係構築のため、労組幹部の能力向上に向けた定期的な研修の実施や組織改革(組合人事制度強化)や産別形成による資源の共有が課題だと述べた。
団体協約の交渉事例として、ベトナム・メトロC&C労組のトラン・ミン・フン氏が、「2007年に初めて協約を締結したがその内容は法律のコピーだった。実用的な内容とするため、2008年に8店舗で現場の意見を聞きあげ、新協約を締結した」と報告、組合役員は非専従が多く、交渉スキル育成が必要だと訴えた。
組織化と新規組合員の獲得については、レ・ハッ・アVGCL組織局教育訓練部副部長が、第9回VGCL大会(2003年)で立てた100万人目標は250万人を達成し、第10回大会(2008年)の150万人目標も2012年6月時点で300万人獲得するなど、ほぼ全ての産業と地域別目標を達成し、2012年6月現在組織人員7,728,938人、うち国営企業が3,904,440人、民間企業が3,824,498人(独法73,321人、外資企業1,692,334人、国内企業2,058,843人)であると報告した。
またビッグC労組のグェン・バン・バイ氏は、2008年の会社設立と同時に組合も結成され、ハノイの4支店で1000人以上の組合員がおり(80%以上が女性)、非専従役員の休暇を12日から15日に増やしたり、週48時間労働を44時間に減らしたりなど、交渉の成果を報告した。休日や祝日に料理大会やミスアオザイコンテスト、自然災害に見舞われた地方へのチャリティなど、組合員の連携と友好強化の活動を実施している。
ベトナムの賃金交渉制度については、労働者・労働組合研究所のダン・クァウ・ディウ氏が、地域最賃(2011年10月に外資企業と国内企業の最賃を統一して以降、①大都市200万ドン=98米ドル/月、②中央直轄市178万ドン、③その他市町155万ドン、④山岳部140万ドンの4分類)、一般最賃(行政、軍隊勤務、地方公務員、105万ドン=48米ドル)、産別最賃(産別団交によって決まり、当該地域相当かそれ以上でなければならない。但し産業区分が労使で異なるケースや、組織が無い場合もあり、全ての産業にあるわけではない)それぞれの定義と複雑な計算方法を説明した上で、労働者(独身及び子供の有る家族)の所得対支出を統計で示し、貯蓄する余裕がない現状と、外資企業は社会保障負担を低く抑えたいため算定基準となる基本給を低くし、各種補助金を支給して所得を上げている点を指摘した。
VNUPTWのフォン氏は、ベトナムではCSRの概念はまだ新しいと前置きした上で、VNPT(ベトナム郵便テレコムグループ)労使の幅広い社会貢献活動(戦死した英雄の追悼、貧困家庭特に少数民族への寄付や子供への奨学金授与、献血、障害者への車椅子寄贈、枯葉剤被害児童の支援等)を紹介した。
参加者からは、「労使協議で意見が合わない場合はどうなるか、使用者側が建設的な態度で協議の臨まない場合はどうするか」、「東京で働くベトナム人から『トイレに行く時間も無い程厳しい労働条件だ』と聞いたが、過剰労働を強いられたら違法か」、「成果主義により賃金が下がった場合、組合費も下がるか」、「成果重視型では間接部門労働者はどのように評価されるのか」、郵政民営化のメリットとデメリット、非正規労働者組織化の困難さや組合費について質問が出された他、「不況の影響を受け、労使双方で負担するはずの社会保険料を企業が滞納したり、他の目的に使用するケースや、退職金を積み立てていないケースもある」といった不満が多く聞かれた。労働法及び労組法の改正点は評価できるが、組合員・役員の能力・交渉力不足が課題であり、VGCLとしても人材育成を最重点課題としていると強調された。
閉会式では、寺嶋団長が「組合員教育は日本と同様の課題だ。ベトナムの皆さんが、外資企業を含めて協調的な労使関係構築と家族を守る最賃引き上げに努力していることに敬意を表する。共に頑張っていこう」と激励の言葉で締めくくった。ニャットVGCL国際局副部長は、今回のセミナーで、VGCLとUNI-Apro、UNI-LCJの協力関係が強化されたと述べ、「市場経済への移行期にあって、社会問題も発生しているが、UNI-LCJの経験は非常に参考になるので、現場で活用していきたい」とまとめ、あらためてUNI-LCJ講師陣の貢献に感謝した。
写真はFlickr参照
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