2026年5月19日、UNI LGBTI+ネットワークは年次オンライン会議を開催し、世界中から約100名の参加者が集まった。会議では、アフリカ、アジア、欧州、米州から労働組合代表が登壇し、LGBTI+労働者を保護・支援するための成功事例を共有するとともに、組合のキャンペーンや取組みを紹介した。また、新たな脅威でありながら十分に報告されていない職場の危険、すなわち「テクノロジーを悪用としたジェンダーに基づく暴力(TFGBV)」にも注目が集まった。
司会を務めたマルタ・オチョアUNI機会均等局シニアコーディネーターは「LGBTI+の労働者について語る際、この暴力には明確な目的がある。それは、懲らしめ、沈黙させ、存在を消し去ることだ。カミングアウトの強要は偶然の事故ではなく、集団的ハラスメントも突発的なものではない。これらは虐待の一形態だ」と述べた。
続いてアルケ・ベシガーUNI副書記長は、組合に組織としてのコミットメントを求め、次のように訴えかけた。「ディーセントワークとは、職場に安全と尊厳があること。仕事に行くというだけで、暴力やハラスメントに直面したり、カミングアウトを強要されたり、差別を感じたりするようなことがあってはならない。平等はアイデンティティの問題ではなく、労働者の権利の問題だ。我々にいま必要なのは、意識啓発から具体的な行動へと移行すること。交渉を行い、政策を策定し、研修を実施し、手順書を作成し、キャンペーンを展開する必要がある」
国際的な状況:LGBTI+の権利にとっての重大な局面
グローバルユニオン評議会のクレア・トレバーLGBTI+労働者グループ・プログラム・コンサルタントは、世界的に権利が圧力にさらされている文脈を踏まえ、「極右勢力の台頭により、世界は重大な局面を迎えている。LGBTI+労働者の権利について労働組合の取組みを強化することが急務だ」と訴えた。また、2025~2026年にかけて以下の行動が実施/計画されていることを報告した。
- 2025年6月、史上最多の参加者を集めたブダペストでのプライド・マーチに労働組合員が参加
- 欧州労働組合連盟(ETUC)と国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)欧州事務所による共同抗議声明の発表
- フィリピンでILO第190号条約に関する研修を実施、 7つのGUFsから20名以上の活動家が参加
- 2025年11月、国連ビジネスと人権フォーラム内で初めて労働組合主導のイベントを開催
- 2026年にはコロンビアでILO第190号条約に関する研修を計画
TFGBVとは何か―なぜLGBTI+労働者に深刻な影響を与えるのか?
会議ではTFGBVに関する概要が紹介され、LGBTI+労働者が非常に高いリスクにさらされている理由が強調された。
オチョアUNI機会均等局シニアコーディネーターは、同局が実施したTFGBVに関する調査結果を発表した。この調査は6言語で実施され、39カ国から137件の回答が寄せられた。回答者の約5人に1人が、職場環境におけるTFGBVの直接的な経験があると報告した。LinkedIn、X、Facebookといった公開プラットフォームが、社内ツールよりも主要な攻撃の場となっている。自らの表現を規制する行動が最も一般的な最初の対応であり、報告されているメンタルヘルスへの影響には、不安、うつ病、身の安全への恐怖などが含まれる。重大な問題として、43%の職場では、関連する保護措置(方針、労働協約の条項、研修など)が一切整備されていない。使用者の対応は不十分と評価され、回答者からは、労働組合の対応すべき最優先事項として団体交渉が挙げられた。
この調査結果は、より広く世界的な状況と一致している。米国のLGBTI+権利促進団体であるGLAADの調査(2023年)によると、現在行われているオンラインハラスメントの91%がトランスジェンダーの人々を標的としている。トレバー・プロジェクトの報告 (2023年) では、13~24歳のLGBTI+の若者の59%がネットいじめを経験している。ILGA欧州事務所の報告書(2022年)によると、レズビアンおよびバイセクシュアルの女性の65%がオンライン上で性的なメッセージにさらされており、Front Line Defendersの調査 (2023年) では、LGBTI+活動家の40%がオンライン上の嫌がらせを理由に活動規模を縮小させていることが明らかになった。
続いてUNI世界ICTS部会のニタ・カランジャ労働安全衛生・技術コーディネーターは、UNIの調査報告書『People Behind the Screens(画面の向こう側の労働者)』について説明し、最も危険にさらされながらも最も目に見えにくくされている労働者グループの一つ、すなわち、ほとんど保護措置のないままデジタル世界において有害なコンテンツの一部を処理しているコンテンツモデレーターやデータアノテーターにスポットライトを当てた。
そして、「LGBTIQのコンテンツモデレーターは、憎悪に満ちたコンテンツに遭遇するだけでなく、それをプラットフォーム上に再掲載せざるを得ない状況に追い込まれることで、特に深刻な影響を受けていた。心理的サポートが存在していたとしても、LGBTQの人々に対するヘイトスピーチなど、内容が極めて悪質とみなされない限り、彼らはそのサポートを受けることさえできなかった」と指摘した。
2025年にUNIはナイロビでコンテンツモデレーターを対象とした初のグローバルフォーラムを開催し、「安全なデジタル労働のためのグローバル労組アライアンス」を発足させるとともに、組織化の権利、有害コンテンツへの曝露制限、公正な契約、トラウマに配慮した安全研修など8つの要求事項を盛り込んだ「グローバル安全衛生プロトコル」を発表している。
各地域からの報告:労働組合の取り組み
●欧州:スペイン、CCOO- 枠組みとしての団体交渉
CCOO サービス部門のローラ・ファティマ・カステジョ・パス女性・平等・多様性担当書記は、スペインの2023年トランスジェンダー権利法および2024年の規制枠組みが、団体交渉を通じてどのように具体化されてきたかを説明し、「労働条件は人々の社会生活や私生活に影響を与える。職場環境で尊重されれば、その幸福感は日常生活にも波及します。そうでない場合、その悪影響は両方の領域に深刻な害をもたらすのであり、それらを切り離して考えることは困難だ」と述べた。
CCOOの戦略は3つの軸に基づいている。一つ目は、差別禁止、職種分類、心理社会的リスク評価、および非性差別的な言語使用を網羅する、すべての主要な産別協定に盛り込まれたLGBTI+条項。二つ目は、予防措置と制裁メカニズムの両方を備えたハラスメント防止プロトコル。そして三つ目は、スペイン政府、CCOO、UGTが共同で策定し、2026年3月31日に公表されたトランスジェンダー支援プロトコルである。このプロトコルは、労働者が行政上の性別登録手続きを開始した際に任意で発動され、個々の移行プロセスを監督するための労使合同委員会を設置するものである。
●Apro:日本、全労金Asia-Pacific –ゼロからの構築
全労金の深見正弘委員長は、2025年6月に同組織が「第2次ジェンダー平等計画」の一環として、性的指向および性自認(SOGI)に基づく差別禁止に関するガイドラインを策定したことを報告した。主な取組み目標として、 事業体に対してSOGIEに対する方針の策定を求めること、ハラスメント防止メカニズムの導入、相談体制の整備などが含まれる。また2019年のILO第190号条約採択後、2年間にわたる交渉を経て、業務に関連するあらゆる場所を対象とする業界全体のハラスメント防止ガイドラインも策定された。
これまでこの種のガイドラインが存在しなかった業界において、重要な一歩である。
●アフリカ:南アフリカ、 SASBO-危険の特定
金融労組であるSASBOのジムキタ・デムカ青年部議長は、労働安全衛生の観点からTFGBVについて言及し、「報告事案数の少なさは、事件の発生頻度が低いことを示すものではない。報告してもさらなる被害を招くだけだと、我々のコミュニティがどれほど不信感を抱いているかを示す指標なのだ。デジタル上の安全に関する団体交渉は、労働者保護の新たなフロンティアだ」と指摘した。
SASBOの要求は、以下の通り:労働安全衛生の枠組みを改定し、LGBTI+特有のリスク評価を通じ、職場におけるTFGBVを明確に職場の危険因子として分類すること。人事部門とは独立した、安全で匿名性の高い通報窓口を設けること。LGBTI+向けのサイバーセキュリティ研修に投資すること。LGBTI+ネットワークの代表者が、オブザーバーではなく意思決定者として労働安全衛生委員会に参加できるようにすること。
●米州:カナダ、Unifor–ツールと指針、制度的枠組み
トビー・ホイットフィールドUnifor顧問弁護士兼全国2SLGBTQIA+(多様な性を表す総称)連絡担当は、教育、実践的なリソース、および団体交渉条項を統合した枠組みを提示した。そして、「労働者の性自認の移行は一人ひとり異なるのであり、職場環境が複雑であることを踏まえた支援が必要だ。使用者には、クィアやトランスジェンダーの人々を差別やハラスメントから守る義務があり、性別移行中の労働者を支援する役割を果たすべきだ」と訴えた。
その重要性は明らかだ。EGALカナダ(2SLGBTQIA+のための権利促進団体)の調査によると、カナダのトランスジェンダー、トゥ・スピリット、ノンバイナリーの労働者の72%が職場での差別を経験しており、ほぼ半数が受け入れられていないと感じたために退職を検討したと報告している。
Uniforの取組み事例:地方組合員を対象とした5日間の「プライド活動家コース」の実施、2025年にリニューアルされた『トランスジェンダー労働者ガイド』の策定(差別禁止、福利厚生、トランスジェンダー移行計画に関するモデル労使協定条項を含む)、地方レベルで労使協定に明文化された「2SLGBTQIA+職場支援プログラム」、地方組合によるジェンダー平等キャンペーン支援のため助成金を支給する「ローカル・エクィティ基金」。
法的枠組み:ILO第190号条約とデジタル職場
本会議では、ILO第190号条約が、職場におけるTFGBVに対処するのに最も適した既存の国際的枠組みであることが説明された。直接適用される条項が3つある。第2条は、保護の対象をデジタルな職場環境およびプラットフォーム労働者に拡大し、第6条は性的指向および性自認を保護対象として明示している。そして第3条は、業務に関連したコミュニケーションを通じて発生する暴力およびハラスメントを規定している。
またILO第206号勧告は、実施に向けたロードマップを提供している。第18項は、デジタル技術およびソーシャルメディアに関する使用者の方針策定を義務付けている。第22項は、デジタル暴力、安全な通報体制、報復からの保護を網羅する団体交渉条項を義務付けている。第16項は、性自認および性的指向別の細分化されたデータ収集を義務付けている。
今後の展望
本会議では、労働組合の行動における6つの優先分野が特定された。労働組合は、TFGBV、オンライン上の暴力、およびLGBTI+の保護について明示的に網羅する団体交渉条項を交渉し、心理社会的リスク評価を含む労働安全衛生の枠組みにおいてTFGBVを職場の危険因子として分類するよう取組むべきである。職場では、通常の人事プロセスとは別に、安全で匿名性が高く、LGBTI+を肯定する報告窓口を設けるとともに、労働者と管理職の両方に対して、デジタル上の安全やLGBTI+の包摂に関する専用の研修を実施する必要がある。ジェンダーアイデンティティや性的指向別に分類されたデータを収集することは、今後も被害の実態を記録し、さらなる行動に向けた根拠を構築するための前提条件となる。政策レベルでは、労働組合はSNSプラットフォームの説明責任を求める運動を展開するとともに、ILO第190号条約の批准と完全な実施を提唱すべきである。