
パンデミック中、商業労働者に対する虐待が急増した。だが世界中のデータが示すのは、この問題がマスク着用義務やソーシャルディスタンスに関するガイドラインの終了後も継続しているという事実だ。
オーストラリアの店舗流通関連労組(SDA)は、小売業労働者の87%が顧客からの言葉の虐待を受けたことがあるとの調査結果を発表した。英国の店舗流通関連労組(USDAW)の報告では、労働者の77%が言葉の虐待を、53%が脅迫を受けたほか、女性や非白人労働者の約半数が、その属性ゆえに標的とされた。米国の小売・卸売・百貨店労組(RWDSU/UFCW)の調査では、米国の小売業従事者の80%以上が銃乱射事件を恐れているにもかかわらず、暴力事件後、使用者が安全対策を実施したと答えたのは7%に過ぎない。
こうした状況に対し、世界中の商業労組は対策を強化しており、職場での虐待に対処し、組合員が受けるべき保護を要求する新たなキャンペーンを展開している。
こうした取組みは既に成果を上げており、立法措置が強化された国もある。
日本:秋田県と東京都で店舗労働者を保護する条例
日本のUNI加盟組織UAゼンセンによる悪質クレーム対策の取組みは、労働者の権利強化において重要な役割を果たしてきた。例えば、2025年4月に施行された東京都の「カスタマーハラスメント防止条例」が挙げられる。この条例は、カスタマーハラスメント(通称「カスハラ」)の防止に焦点を当てた国内初の条例である。条例は、従業員に「重大な迷惑」を与える可能性があり、就業環境を害するおそれのあるハラスメントや顧客の行為を禁止し、防止を促している。
東京都、顧客、労働者、使用者の責任を明確に定めたこの条例は、顧客に対し言動や行為に配慮を求めている。また使用者には「必要かつ適切な措置を講じるよう努める」ことを課している。条例は新たな罰則を設けていないものの、行為の性質によっては、既存の法律に基づき顧客の行為が罰則の対象となる可能性がある。
永島智子UAゼンセン会長は、「UAゼンセンは2015年から顧客によるハラスメント対策に取組んできた。東京都や他の自治体で条例が制定されるまで10年を要したが、重要な進展だ。さらに2025年の国会会期中に、企業が顧客ハラスメント防止措置を講じることを義務付ける法案が成立する見込みだ」と述べ、「我々の取組みの原動力は、組合員の声。サービスを受ける側も提供する側も共に尊重される社会を築くことが目標。今後もカスタマーハラスメント防止の改善に向けた活動を継続していく」とコメントした。
都条例は、2022年4月に施行された秋田県「多様性に満ちた社会づくり基本条例」の成功を基盤としている。秋田県の条例は、日本で初めて商業従事者が直面するハラスメントに対処するための包括的な予防措置を定めた条例である。
英国:労働者保護にむけた刑法の改正
英国のUSDAWが実施した最近の調査によると、小売業従事者の93%が、労働者保護を強化する法改正を望んでいることが明らかになった。
2025年2月下旬、英国政府は議会に「犯罪および取締り法改正案」を提出した。この法案が成立すれば、小売業従事者に対する暴行罪を新設し、最高6か月の懲役刑を科すほか、200ポンド以下の万引きは軽犯罪扱としていた規定を撤廃し、あらゆる窃盗行為を抑制する措置が講じられる。
この法案は、2022年4月にイングランドとウェールズで成立した法律を基盤としており、小売業従事者を「一般市民へのサービス提供者」と定義し、小売業従事者に対する攻撃を法定犯罪と定めている。
スウェーデン:入店拒否法

スウェーデンのUNI加盟組織HandelsとUnionenのたゆまぬ取組みにより、スウェーデンは2021年に商業従事者向けの具体的な立法を世界で初めて導入した。「入店拒否法」では、顧客が店舗内で犯罪を犯したり他者に対するハラスメントを行うリスクがある場合、その顧客は店舗への入場を禁止される可能性がある。これに違反した者は、罰金または最大6か月の懲役刑に処される場合がある。
スウェーデンの小売企業ICAの従業員であるジュリア・サロムンソンは、新法により支援を受けた初の労働者の一人だ。彼女は、繰り返し止めるよう求めたにもかかわらず、執拗な顧客にストーキングされていた。新法により、この顧客に対し、店舗への入店や連絡を禁止する措置が講じられた。禁止措置は後に拡大され、次なる措置として懲役刑が検討されている。ジュリアは、「検察官が懲役を求刑するとは思わなかった。真剣に受け止めてくれて嬉しい」と語った。
スコットランド: 小売従業員保護法
スウェーデンに続き、スコットランドでは2021年に小売従業員保護法が制定した。この法律は、USDAWが長年展開してきた「恐怖からの解放」キャンペーンの最初の勝利であり、イングランドとウェールズでも同様の立法の導入に貢献した。
この法律は、小売従業員に対する暴行、脅迫、虐待、妨害、または業務妨害を新たな法定犯罪として定め、この罪は罰金刑に処せられ、罰則は最大12ヶ月の懲役刑となる。小売従業員が法に定められた年齢確認を実施した際に、拒否するなどの妨害行為に対しては追加の法定加重が適用される場合がある。
この法律施行初年度には、小売従業員に対する3,277件の犯罪が報告され、そのうち大部分(1,130件)は、小売従業員に対する脅迫的または虐待的な行為に関する犯罪であった。さらに786件は小売従業員に対する軽犯罪法違反の暴行事件であり、重大な暴行事件も8件発生している。
オーストラリア: 複数の州と地域で労働者保護強化の法律
SDA「No One Deserves a Serve」(誰も叱責されるいわれはない)キャンペーンは、オーストラリアの複数の州と地域における強力な保護立法の推進力となってきた。
2022年に、西オーストラリア州、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、およびノーザンテリトリーは、パンデミック中の虐待の増加に対応し、乱暴な顧客に対するより厳しい制裁を導入した。その後、南オーストラリア州、ニューサウスウェールズ州、および西オーストラリア州の議会は、業務中の小売従業員に対する暴行を特定の犯罪として規定したり、業務中の小売従業員に暴行を加えた顧客に対する罰則を強化する措置を導入した。
ビクトリア州議会は現在、小売業を含む顧客対応従事者に対する新たな保護措置を盛り込んだ立法案を検討中である。
米国:小売労働者安全法
米国のUNI加盟組織RWDSUが主導したキャンペーンにより、ニューヨーク州で画期的な小売労働者安全法が成立した。この法律は、暴力の激化と致命的な事件が相次ぐ中で、小売業従事者の安全を守ることを目的としている。
2024年9月に成立したこの法律は、従業員が10人以上の小売業事業主に対し、小売業職場暴力防止方針の策定と従業員への年次研修の実施を義務付けている。全米で従業員が500人を超えるすべての小売業者は、従業員全員にパニックボタンを設置するか、装着可能またはスマートフォンベースのパニックボタンを提供しなければならない。

新たな立法は、すでにニューヨークの小売業従事者の保護強化を確立する上に役立っている。ニューヨークのバーンズ・アンド・ノーブル書店で締結された最初の団体協定は、法律を超える安全措置を盛り込んでおり、安全委員会や職場における暴力とハラスメント対策(エスカレーション防止訓練や危険な状況から離れる権利など)が含まれている。
ニューヨーク市ユニオン・スクエアのバーンズ・アンド・ノーブル旗艦店で働く書店員ベア・シュピーゲル氏は「協定に盛り込まれた多くの安全措置により、私と同僚が可能な限り安全に働けるようにしたことが、一番うれしい」と、語った。
商業部門におけるカスタマーハラスメントを根絶するための世界的な取り組み
加盟組織の成功から得た学びを活かし、UNIは継続的な取り組みを通じて、カスタマーハラスメントと闘う労働組合を支援していく。マタイアス・ボルトンUNI世界商業部会担当局長は、「加盟組織の勝利は、組合員のために闘う商業労組の力の証だ。新たな立法措置を歓迎するとともに、加盟組織が労働者保護の重要な措置を獲得したことに祝意を表したい。だが闘いは終わっていない。我々の世界的なキャンペーンを通じて、世界中すべての商業労働者が職場で安全に働けるまで、我々は闘い続ける」と述べた。











