2024年9月26~27日、全電通労働会館ホール(東京都千代田区)において、UNI世界金融部会、UNI世界専門職・監督職(P&M)委員会共催シンポジウム『デジタル化とAIがもたらす労働の未来』を開催した。1日目は全部門対象に「生成AIについて」をテーマに、2日目は金融部門対象に「銀行業界と保険業界におけるAI」をテーマに開催し、UNI-LCJ加盟組織や未加盟の金融労組他、2日間で延べ約120人が参加した。
本シンポジウム開催に伴い、海外より、アンジェロ・ディクリストUNI世界金融部会担当局長、マッシモ・メンシUNI世界専門職・監督職(P&M)委員会担当局長兼UNI Aproデジタル・テクノロジー政策アドバイザー、ジャヤスリ・プリヤラルUNI Apro金融部会担当部長兼UNI Apro専門職・監督職委員会担当部長を、また日本より、独立法人労働政策研究・研修機構の岩月信也研究員を招聘し、最新の事例と研究が共有された。
昨年より生成AIの台頭によって、仕事の世界においても様々な機会に、AIやデジタル化についての議論が関心を集めてきた。激動の変化の中で、労働の世界はどのように変化し、公正な移行に向けて労働組合はどのように対応していくべきか、活発な議論が展開された。
1日目-UNIの部門横断的視野から、仕事の世界における生成AIの現状と組合の取組みについて、議論がなされた。
冒頭の挨拶でディクリストUNI世界金融部会担当局長は、新技術が労働に与える影響について触れ「特にデジタル化とAIは労働者にとって機会と課題の両面の意味を持つ。AI技術が労働者の仕事を奪う可能性がある一方で、労働環境の改善にもつながる可能性がある。UNIとしてはAIに関する政策検証が重要であり、これに対応する準備が必要だと」強調した。
次に挨拶した安藤京一UNI-LCJ副議長(情報労連中央執行委員長)は、デジタル化とAIの進展が労働市場に与える影響を指摘し「多くの職業が自動化されるリスクがあり、労働者が新しいスキルを習得し、増々変化に適応することが必要だ」と述べ、労働時間の柔軟性やリモートワークの普及に伴い、労働組合が従来の枠組みを再構築する必要性を強調した。
■基調講演 「生成AIが労働力に与える影響」
メンシUNI P&M委員会担当局長は、生成AIの現状と今後の動向、生成AIが各部門や労働力に与える影響について基調講演を行い、生成AIなどの新技術が生産性を向上させる一方で、労働者の雇用や権利を侵害するリスクを指摘した。特にアルゴリズム管理が労働者を過度に監視し、労働環境を悪化させる可能性があるとした上で、労働組合がこうした技術の導入に対して労働者の権利を守るための交渉を行う重要性を強調した。
■パネル・ディスカッション「生成 AI の部門横断的影響について」
プリヤラルUNI Apro金融部会担当部長がセッションの司会を務め、4組織(UAゼンセン、JP労組、大日本印刷株式会社、情報労連(※発表順))の報告が共有された。
松井健 UAゼンセン常任中央執行委員/労働条件局長/政策サポートセンター長は、デジタル技術革新への対応と人材育成強化の取組みについて説明した。「2019年から労働条件交渉にAI導入を要求項目に加えた。AIとDXの推進が労働者にとって必要不可欠であり、人材育成と技術導入による生産性向上が重要だ」と強調した。 吉野充 JP労組特別中央執行委員は、物流業務の自動化や無人搬送車、ドローンを使った配送など、労働力不足への対応策を具体例として挙げ、日本郵政グループにおけるAI活用と省力化、省人化の取組みや組合としてAI技術の活用を支持する理由を説明した。 大竹宏之 大日本印刷株式会社 技術・研究開発本部ICT統括室室長は、同社のDX戦略と生成AIの取組みについて発表し、「社内にAI利用環境を整備し、全社員へのリテラシー教育を推進している。またAIの活用に伴う倫理的問題にも配慮し、高セキュリティな運用を行っている」と説明した。 春川徹 情報労連副中央執行委員長/KDDI労組中央執行委員長は、生成AIの導入が職場で進行している事例を紹介し、AIの活用が労働者のサポートとなり、効率向上に寄与している点を強調した。またAIが人事評価に利用される可能性に対して懸念を示し、人間中心のAI活用の必要性を主張した。
■アルゴリズム管理「労働組合役員のためのUNIガイド」
メンシUNI世界P&M担当局長は、アルゴリズム管理(作業プロセスをコンピュータで調整する技術で、リアルタイムのモニタリングや職場の意思決定に活用されている)と生成AIが労働環境に与える影響について説明をした。特にアマゾンの倉庫労働者が過剰な監視を受けている事例を挙げ、労働者の生産性や健康に悪影響を及ぼすことを指摘し「労働組合が透明性を確保し、労働者の権利を守るための団体交渉を実施すること、そして今後の生成AIの進化に対応するためのスキルアップとトレーニングの重要だ」と強調した。
講演を受けて、フロアからは多くの意見や質問が出た(以下❶~❺)
❶ 春川徹 情報労連 副中央執行委員長:「労働組合がビッグデータを活用して組合員のエンゲージメントを高め、組織活動を改善する事例を知りたい」という質問に、メンシ局長は「欧州の労働組合では生成AIを活用して団体交渉データを分析し、労働協約を改善する取り組みが進行中である」とし、労働組合が生成AIに関する研修を実施して情報格差に対抗し、組織活動の効率化を図る計画が進められている事例を紹介した。
❷ 岩月信也 労働政策研究・研修機構研究員 :「多くの労働者がAmazonで働き続ける理由やストライキなど対応手段を取る可能性はあるか?」という質問に、メンシ局長は、 同社は失業率や貧困率が高い地域において他に選択肢がない労働者を雇用しているため、過酷な環境でも労働者が辞められない現状が続いていることを説明し「労働組合が結成され対抗措置が取られたた事例はあるが企業の影響力が強い中での闘いは厳しい」と言及した
❸ 北村聡太 UNI Apro金融部会議長/損保労連中央執行委員長 :「アルゴリズム管理の厳しさに非常に懸念を感じる。団体協商や労使協議を通じて労働者の健康や労働条件に配慮された形でアルゴリズム管理が導入されるケースがあるのか?」という質問に、メンシ局長は「アルゴリズム管理が労使協議によって労働者に有益な形で使われるケースは可能である」と回答し、イタリアの事例等を紹介した。
❹ 許晃 全労金書記次長 :「企業側がビッグデータとアルゴリズムを導入する中、労使の情報量の差がさらに広がる状況にどのように対応していくべきか、またオープンソースや廉価なアルゴリズムを労働者や協同組合が共有財産として運営している事例を知りたい」という質問に、メンシ局長は「技術を労働組合が活用することが情報格差への対策である」と回答し、米国で清掃スタッフがソフトウェアの不具合を明らかにし、訴訟を通じて解決した事例を紹介した。
❺ 大津郁美 大日本印刷労組常任執行委員:「労働者自身は職場でAIとどのように向き合うべきか?」という質問に、メンシ局長は「労働者はAIを拒絶するのではなく知識と経験を活かして慎重に活用すべきだ。AIは統計技術に基づくものであり、労働者自身が判断する姿勢が必要だ」と述べた。
※UNIが2023年に発表した報告書 『アルゴリズム管理:集団行動のチャンス』に関する記事と日本語前文はこちら のリンクよりお読みいただけます。
2日目 -銀行業界と保険業界におけるAIの影響やILOでの取組み、OECD諸国と日本の比較研究の成果などが共有された。
前日に続いて2日目シンポジウムの挨拶をしたディクリスト局長に続き、北村聡太 UNI Apro金融部会議長(損保労連中央執行委員長)が挨拶をした。北村井議長はデジタル技術やAIが金融業界に与える影響について触れ「今こそ労働組合の役割が重要であり、スキルアップの強化が必要だ」と強調した。
■金融部門のデジタル化に関するILO三者会合結論文書
ディクリスト局長は、ILO三者会合の結論文書を紹介し、デジタル化が金融業界における雇用の安定や労働者のスキル向上に大きな影響を与える一方で、雇用の自動化によるリスクも伴うと指摘していることに言及した。また、労働組合がこの変革に対応して労働者の権利を守るための社会対話を行う重要性を強調した。
講演を受けて、フロアよりいくつか質問や意見があった。(以下❻~❾)
❻ 荻原周 損保労連事務局次長:「今後DXが進展する中で、労働組合として雇用リスクを未然に防ぐために取るべき対策を聞きたい」という質問に対し、ディクリスト局長は「リスキリング再教育や技能向上が重要であるが、特に高齢労働者に対しては早期退職などの手当を設ける必要がある」と回答した。
❼ 山本洋子 JP労組中央執行委員:「デジタル競争力ランキングで日本が順位を下げた。デジタル化に対して労働組合が果たすべき役割について聞きたい」という質問に対し、ディクリスト局長は「労働組合が規制の枠組み作りにおいて役割を果たすことが重要であり、新技術導入に対する組合の発言権を確保する必要がある。デジタル化による職の喪失に対し、労働者が威厳を保ちつつ職を離れられるよう、適切な対応策を講じるべきだ」と強調した。
❽ 許晃 全労金書記次長:「金融産業における企業がビッグテック企業の提供する技術基盤に依存している現状がある。労働組合がビッグテック企業に行動を起こした事例について聞きたい」という質問に対し、ディクリスト局長は「労働組合は、市場を独占しているビッグテックに社会的視点を持つよう働きかけるべきだ。労働者の権利を守るための規制を進める必要がある」と回答した。
■銀行部門のEU社会パートナーによる「金融部門におけるAIに関するEU共同宣言」
「金融部門におけるAIに関するEU共同宣言」について、メンシ担当局長が経緯を含めて概説した。「共同宣言は、銀行業界におけるAIの影響を広範に取上げ、透明性、公平性、差別禁止、プライバシー保護の原則を重視している」と説明し、金融部門における具体的なAIの適用状況に触れた上で「特にAIのアルゴリズムによる意思決定は人間が管理すべきであり、AIの導入とモニタリングに際しては、AIが倫理的に使用され、全てのステークホルダーに利益をもたらされるよう、社会パートナーを参加させることが必須だ」と強調した。
❾ 櫻井大介 全労金書記長:「AIと人間の管理のバランスを保つことの困難さを感じている」と意見したのに対し、マッシモ局長は「AIがもたらす変化と倫理的側面についての重要性を認識したうえで、AIの導入には労働者の権利保護を確実に行う必要がある」と応答した。
■講演「職場におけるAI技術の活用と従業員への影響-OECDとの国際比較研究に基づく日本の位置づけ-
労働政策研究・研修機構の岩月信也研究員が、2021~2022年に実施した上記調査の概要を報告し、日本と多国の共通性や差異について概説した。そして職場への影響は、技術が一義的に決定するのではなく、組織の方針や介入によって大きく左右されると指摘した。特に、タスク変化やスキル向上、雇用への影響が重要視され、AIが必ずしも従業員の職務を全面的に自動化するわけではないとする見解を示した。また、欧州でAI導入に関して労使協議がなされている場合でも組合側の持つ情報や知識が十分でないため、協約の文言について組合が十分にコントロールできていない状況であり、労働者側の知識の蓄積や労使当事者の主体性が重要だと言及した。
報告を受けて、活発な意見交換がなされた。
木下宏樹 全信連書記長は、信託銀行業界では個別性の強い業務が多いためAIの活用領域は相対的に少なく、またAI導入が直ちに雇用喪失や処遇低下に繋がるわけではないが、業務効率化と生産性向上を図るため、労使共通の戦略でAIを推進する必要があるのとの認識を示した。
松田惣佑 生保労連書記長は、生保産業においてAIは事務や営業の支援として活用されているが、今後も女性の雇用を支えつつAIの影響を注意深く見守るべきであるとの見解を示した。
川岸正徳 全国農団労代表は、人手不足が深刻化しており農協ではデジタル化を打ち出している。新技術に関して高齢層は手を出したがらず、業務が若い世代に集中して負担となっている現状があり、適切な技術導入の必要性を感じていると発言した。
榎本直人 労済労連中央執行委員は、日本でAI技術の活用方針が労働条件に大きな影響を与えていない要因や背景について質問した。これに対し、日本では解雇が難しい点や日本の賃金制度が挙げられた他、日本のサービス産業ではAIに対応できない細かな業務が多いため、AIの費用対効果が薄いのではないかとの見解が示された。
■グローバル視点から見た金融部門におけるAIの影響 メンシ担当局長は講演の中で、AI技術は銀行業務の中で高頻度取引や不正の検知、マーケティング最適化などに利用されており、効率性の向上やリスクの低減に貢献している一方で、AI人材の維持確保が課題であり、特に高度なAI専門家の需要が高まっている点などを指摘した。また各職業・職種についてのAIの影響に関するILOの研究を紹介した。
■閉会 安達正美JP労組書記長が、シンポジウムを通じて議論されたAI技術の進展と労働環境への影響について振り返るとともに、AIが労働環境に大きな変化をもたらすことは不可避であり、労働組合としてその変化に適切に対応する必要があると強調した。続いて、プリヤラル担当部長が2日間のワークショップを総括し、技術をどのように管理し活用していくかが重要な課題であるとし、労働者の権利を守るために組合の果たす役割を再確認した。最後に、ディクリスト担当局長が、日本での経験を持ち帰り今後の活動に活かしていきたいと述べ、シンポジウムを締めくくった。