2025年5月半ば、35カ国から80人を超えるUNI加盟組織の役員が、スイス・ニヨンのUNI本部に集まり、銀行業と保険業界において拡大する人工知能(AI)の影響について議論した。
UNI 世界金融部会が主催したこの会議では、労働組合、国際機関、主要な銀行経営陣が参加し、AIが労働者に与える影響、リスク、機会について議論し、労働組合がAIの普及をどのように形作ることができるのか、意見を交わした。
クリスティ・ホフマンUNI書記長は、UNIが労働者に及ぶAIの影響に関する議論の先頭に立ってきたと述べるとともに、労働組合が社会対話と団体交渉を通じて果たす役割の重要性を強調した。同書記長は、「直感的に分かりにくいかもしれないが、実際にAIは労働者の問題だ。労働組合として、我々は有害な影響、その軽減策、リスク評価、そして労働の強化から生じる問題を認識している。準備を整え、互いに話し合い、互いから学ぶ必要がある。我々は準備を整え、自らの能力を構築していくことができる」と訴えた。
アンナ・マリア・ロマーノUNI世界金融部会議長は、職場のダイナミクスにおける危険な変化を警告して次のように述べた。「我々がAIに盲目的に従う時——アルゴリズムが我々のペース、決断、価値を支配する時、危険な一線を越えるリスクがある。その一線を越えると、人間は進歩の受益者ではなく、その製品となってしまう。監視され、分析され、最適化され——最終的に商品化されてしまう。(…中略…)労働組合として、そして職場における人権の擁護者として、我々の役割として、その境界線を常に意識することが重要だ。AIが人々を強化するものであって、人間にとって代わるようなことがおきないよう、そして労働者が効率性だけでなく、自律性を確保できるようにするためだ」
専門家の分析:リスクと現実 ILOの経済学者、ウマ・ラニ氏は、AIの二面的な影響について詳細に説明し、効率性と安全性の向上を強調する一方、監視、偏見、労働の強化に関する懸念を指摘した。またOECDの調査結果を引用し、複数の先進国で金融部門の従業員と雇用主の42%が既にAIを活用していると述べた。
ユーロファウンドのドラゴス・アダスカルテイ氏は、AI技術の導入加速とAIが可能なタスクの多様化を特徴とする新たなデジタル化時代に入っていると指摘した。だがAIはほとんどの場合、仕事を置き換えるよりも補完する可能性が高いと主張、低スキルの労働者が最も脆弱な立場にあると述べた。そして「AIの雇用への総合的な影響は主にポジティブだが、生産性向上の動向に大きく左右される」と指摘し、労働者の参画とスキル向上が必要だと強調した。
雇用主の視点 フランス系銀行のクレディ・アグリコル・グループのチーフデータ&AIオフィサー、アルドリック・ザッペリーニ氏は、同行がAIの導入前に開発、テスト、トレーニングに数年を費やした経緯を説明した。しかしなお鍵を握るのは労働者であると強調し、「すべてのタスクは人間と同等の品質で実行されなければならない。顧客への対応はすべて人間が確認する」と述べ、銀行はAIシステムがプロセスを向上させつつ、倫理基準を遵守するよう確保する必要があると付言した。
クレディ・アグリコルのピエール・ケルシュ・グループ労務関係部長は、同行がUNIと締結したグローバル枠組み協定を引用し、従業員が団体交渉を通じて、特にAIを含む新技術がもたらす潜在的な負の影響を特定、予防、軽減する仕組みを説明した。
イタリア最大手行のインテサ・サンパオロのグループデータ責任者を務めるマルコ・ディッタ氏は、AIが銀行およびその顧客に影響を与えるあらゆる事項について議論する場を内部に設けたと明かした。AIは、責任あるAIに焦点を当てたガバナンスメカニズムを備えた産業用の拡張可能なツールとして導入されている。
インテサ・サンパオロの労使関係部長であるパトリシア・オルダッソ氏は、従業員が現在と未来において必要なスキルを獲得するための必修の研修とツールを同行が整備したこと、またプロセスの各段階は労働組合と協力して進められていることを報告した。
労働組合がリードを とる 研修を実施しているのは企業だけではない。南アの労組SASBOのナタリー・ジョージ氏は、Sasboデジタルアカデミーを通じて1,000人を超える組合員がデジタルスキル向上コースを修了したと報告し、AIに関する共同監督委員会の設立を計画していると述べた。
他の地域でも、労働組合がAIを活用して進歩的な目標を推進している。オランダの労組FNVのデュグ・アクチャイ氏は、テクノロジーによる効率化を背景に週4日労働制を提唱した。「週5日労働制は時代遅れだ。我々はよりスマートに働き、生産性を向上させ、ストレスを軽減できる」と主張し、同国で欠勤の主要因であるストレスの問題にも言及した。
一方インドからは、AISBISF のL. チャンドラセカール氏が、インドのAI駆動型銀行改革が急速に進展しているものの、英国やEUのような強力な規制枠組みが欠如していると指摘、労働者の声を反映させるための組合の取組みについて説明した。
アイルランド金融労組のジョン・オコンネル氏は、女性が高い割合でAI関連職種に就いているため、大きな影響を受けていると指摘した。組合員の88%が職を失うことを恐れていると明かし、公正な移行の必要性を強調するとともに、強力な交渉、公共投資によるスキル向上、EU AI法の活用を通じて労働者を守る必要性を訴えた。
ノルウェーの組合から参加したアーネ・ハーシュタイン氏は、AIに関する交渉は複雑であり、労使協働のフォーラムを設立し、団体協定に盛り込む条項を共同で検討していると語った。
オーストラリア金融労組のニコール・マクファーソン氏は、同組合が銀行・保険業界の従業員を組織化する際にAIをテーマとして活用した事例を紹介した。2,200人の金融業界従事者のアンケート結果を活用し、同労組は数百人の新規組合員を勧誘、AIに関する職場憲章を策定した。
アンジェロ・ディクリストUNI世界金融部会担当局長は、「AIは急速に進化しているが、我々も歩みを進めている。互いに学び合い、知識を共有し、最新情報を維持する必要がある。この会議は単なる一回限りの議論ではない。UNIを通じて、我々は職場におけるAIの未来を形作るためのツールを構築することができる。組織化と団体交渉を通じて、労働者が声を上げ、保護され、未来に備えられるようにしていくことができる」と述べて会議を締めくくった。