
コンテンツ生成から反復作業の自動化まで、AI技術が仕事のプロセスにますます組み込まれるようになる中、議論はイノベーションと労働者の権利のバランスを見出す方向にシフトしている。2024年10月2日、人工知能に関するFESとUN欧州が共催する会議が開催され、UNIからは米国脚本家組合の幹部らが「AIが我々の仕事を向上させるのか、それとも創造的な本質を奪うのかは、団体交渉を通じてテクノロジーの使用条件を形成する労働者の能力にかかっている」と力強いメッセージを発信した。
会議の冒頭、仕事の未来に関するFESコンピテンス・センターのクヌート・デトレフセン部長は、「AIの技術的進歩は、創造的な仕事をする人々にどのように利益をもたらすことができるのか」という核心となる問いを投げかけた。この問いは、AIの変革力に対して広がる不安を反映したものだ。技術の進歩は、効率性の向上を約束する一方で、適切な保護措置がなければ、特に文化・クリエイティブ産業の労働者の権利を侵食しかねないという懸念が高まっている。
搾取なきイノベーション
欧州連合(EU)は現在、AI技術の利用を規制することを目的としたAI法のような法的枠組みを通じ、この微妙なバランスを調整している。会議の主要講演者の一人である欧州議会のブランド・ベニフェイ議員は、欧州におけるAIの将来について、楽観論と警戒感の両方を表明した。同氏は「この2年間の生成AIの進歩は信じられないほどであるが、我々はイノベーションを阻害することなく、クリエイティブ産業の労働者にとって良い条件を整えたい」と述べ、特にAI使用によってクリエイターの仕事が搾取されうるという点で、利害関係が大きいことを強調した。また、EU加盟国がAI法を弱めるよう強く働きかけていること、そして経済的な関心は、AIシステムを訓練するためにクリエイティブなコンテンツを使用することにあることを指摘し、「欧州のAI規制を失敗させるようなロビー活動がすでに行われている。クリエイティブ・ワーカーを搾取から確実に守る必要がある」と発言した。
拡張か、置き換えか
AIの影響をめぐる議論は、AIが職場にもたらす変化の 「グラウンド・ゼロ」と呼ばれる文化・クリエイティブ産業において、特に激しくなっている。政治経済学者のダニエル・ミュッゲ教授は、AIに関する議論の変化について言及し「我々はもはや、AIが自動化によって雇用のない社会を作るという議論をしているわけではない。(…中略…)それよりも、仕事の質、労働者が仕事から感じる満足感や安心感について議論がなされているのだ」と発言した。
同氏の発言は、AIが自らの生活にどのような影響を及ぼすかについて考えを巡らせている多くのクリエイターの共感を呼んでいる。
AIは反復的な作業を軽減し、労働者がより創造的な仕事に集中できるようにする、大きなチャンスを提供している。ヨハネス・ストゥディンガーUNI世界メディア部会担当局長は、AIは人間の活動を代替するのではなく、それを拡張するために使用されるべきであると強調し「創造は人間の活動だ。AIが作家やクリエイターの作品に取ってかわることは許されない」と述べた。
AIを擁護する人々にとって、AIが仕事のプロセスを合理化し、ワークライフバランスを改善する可能性は、重要なセールスポイントである。ストゥディンガー担当局長は、「労働組合はすでに、AIをどのように利用すればより良い生産計画を立て、時間を節約し、労働者に柔軟性を与えることができるかを交渉している」と指摘した。しかし、こうした楽観的な見方は、雇用の劣化、創造的コントロールの喪失、知的財産の搾取といった懸念によって抑えこまれている。
闘争とストライキ
AIが悪用される可能性に対する懸念の高まりは、すでに重要な労働争議に発展しており、なかでも全米脚本家組合(WGA)が組織した米国の脚本家による148日間のストライキは記憶に新しい。労働運動全体が148日間に及んだWGAのストに連帯し、UNIは欧州をはじめとする世界各地での支援を組織するとともに、世界行動デーの実施を支えた。WGAで交渉担当を務めた経験を持つエレン・スタッツマンWGA-West事務局長は、集団行動の力を実証した今回のストライキから得た経験について、「我々がプロデューサーと交渉に入ったとき、彼らは石を投げつけるような態度だった(…中略…)彼らが交渉の席に戻ってきたのは、ストが起こってからだ」と語った。
ストライキの重要な争点は、コンテンツ制作におけるAIの役割であり、同氏はWGAがAIの役割について「執筆ではなく、調査すること」との定義づけに成功したと述べた。また、AIが人間のクリエイターの仕事を利用してアルゴリズムを訓練する際の透明性と報酬の必要性を強調し「肯定的な同意と透明性が必要」と付言した。
同氏の経験は、クリエイティブ産業に広がっている「適切な報酬や同意なしに過去の創作物を取り出して利用するAIの能力」に関する懸念を浮き彫りにしている。ベルギー劇作家作曲家協会のフレデリック・ヤング事務局長は、こうした行為を「大きな盗み」と呼び、過去および現在の人間による創造性が二重に搾取されている状況を指している。
立法と政策対応
AIが進化し続ける中、立法者や政策立案者は、クリエイティブ産業の労働者をどのように保護するか、取組んでいる。ポール・ケラー・オープン・フューチャーの政策担当部長は、著作権指令やAI法などの現行法には、コンテンツがAIシステムの訓練に使用されるクリエイティブ労働者への報酬に関する規定が欠けていると指摘した。欧州議会のアレクサンドラ・ギース議員もこの懸念に共鳴し、欧州がデジタル・インフラに対する主権を維持するために、独自の技術的能力を構築する必要性を強調し「機能不全に陥った市場は、文化の多様性を危険にさらす」と警告した。
ブランド・ベニフェイ議員をはじめとする政策立案者は、AI法を、AIが企業だけでなく労働者の利益にも資することを保証するための重要な手段であると捉えている。しかし、ロビー活動や莫大な経済的利益を背景とする大きな課題に直面している。ベニフェイ氏は、欧州各国の首相がAI法を弱めるよう働きかけていることを指摘し、「圧力は非常に大きい」と懸念した。
オリバー・レティクUNI欧州地域書記長は、AIは新たな課題ではなく、技術進化の継続的なプロセスの一部であるとの考えに同調し、「労働組合や労働者は、未来や変化に反対しているわけではない。我々が、未来や変化を形づくらなければならないのだ」と発言した。また、AIによる生産性の向上をクリエイティブ・ワーカー、プロデューサー、投資家の間でどのように分配するかに焦点を当てなければならないと強調し、「我々は変革をいかに管理していくかについて議論している」とした上で、団体交渉を通じて労働者に力を与える枠組みを求めた。そしてWGAの交渉などの事例を、欧州の組合が交渉の中でAIにどのように取組んでいくかの参考モデルになると指摘した。このような団体戦略を活用することで、組合は、AIによる生産性が労働者の権利を侵食するのではなく、労働者の権利を強化することを保証する上で、重要な役割を果たすことができるのである。




