UNI-LCJ金融部会、シンガポール金融部門を調査

newsImage 第3回UNI-Apro金融部会大会を控え、UNI-LCJ金融部会としてどう貢献できるかを考え、シンガポールの金融部門の調査を行った。


調査の背景とコンセプト
今般の世界的金融危機により、米国・ヨーロッパ地域との関係において世界経済の成長セクターであるアジアの存在感が増大する中、UNI-LCJ金融部会 としてアジア太平洋地域に貢献する必要があるとの認識を持つに至った。損保労連の石川中央執行委員長・山崎事務局長、全労金の河野書記長、全信連の佐藤議 長、労済労連の照沼書記長、UNI-LCJの伊藤事務局長でチームを組織、アジアの金融のハブ機能を担うシンガポールの金融労働組合、金融機関、金融監督 当局などを訪問し、世界的な金融危機の影響や国際的な金融規制のあり方、ならびに金融機関における人材育成の実態調査を行うことを決めた。なお、コンセプ トは、①労働組合以外の金融規制当局などを含めた様々な組織へのアクセス力強化、②金融機関が誠実で正しい事業運営を行うための社会性のある人材育成の調 査、③労働組合としての影響力拡大のために組織化を行い、地域内のUNIメンバーを増やすこと、の3点である。

調査の概要
2009年6月8日(月)~10日(水)の日程で、計10箇所を訪問した。

クリストファー・ウンUNI-Apro地域書記長とのミーティング
ウン地域書記長よりADB(アジア開発銀行)へのアプローチの重要性について提起があった。この点では、「最終的にアジア太平洋地域のGUF(グローバ ルユニオン)が共同して影響力を拡大するために意思統一し、PSI(国際公務労連)が前面的に役割を果たしながら取り組めることとなったこと。具体的に 2009年2月の理事会では、ADB・GUF・ITUC-APの対話の会議を持つことができたこと。また、対話の結果、ADBの教育プログラムにGUFか ら講師派遣することができ、かつADBに労働組合デスクを置くことができそうで、それらを通じてコーディネートする動きも出てきたこと」などの報告があっ た。

アクサ・シンガポール支社での経営側とのミーティング
持続的な成長のための世界的戦略として人材育成を強化しているアクサのシンガポール現地法人のCEO、「世界的な金融危機の中でのアクサのアジア地域の 状況と各国の事情に合わせた戦略」、「人材育成のためのカリキュラムや社員対象の『スコープ』というアンケート」、「持続的発展のための労使対話・協議の しくみや社員との直接の関係づくり」などの説明があった。なお、MASに対しては、「活動は活発で職員研修を含めて様々な指摘をしてくる。レギュラーベー スで監査が行われる。そういう意味で少しやり過ぎ感はあるが、大変プラグマティックで、実際に良い規制であると受け止めている」との見方が紹介された。ま た、急遽、アクサ・アジア太平洋キャンパス(アジア太平洋地域の人材の能力開発・発展を目的に500万ユーロをかけて建設されたもの)見学の機会を得るこ とができた。また学長より、全世界の社員とアクサの経営理念を共有するために「アクサカルチャーというプログラムを重視していることや、毎年各地域のトッ プが集まってアクサバリューを確認した上で、経営トップ自らが各国を訪問しアクサの価値観を伝えることで企業コンセプトや戦略を徹底している」という話が 印象的であった。

NTUC(シンガポール全国労働組合会議)及び関連組織
NTUCは労働者の理解と経済的競争力のバランスを重視しており、金融危機を受けて「人員削減数がアジア通貨危機時の29,000人に達しないようにし よう」、「失業率が過去最悪だった5.2%に届かないようにしよう」、「回復に努力しよう」の3つを柱とする「Up turn」戦略を確認・実行しているとの説明があった。また、1972年からスタートした政労使の三者構成が機能しており、そこで作成される賃上げ交渉等 のためのガイドラインの位置づけも極めて高いことがわかった。その他、「NTUCとして女性が働きやすいように再雇用の取り組みを促進していること。ま た、組合費を払わない労働者が多い中で『nEbo』というティーンエイジの集まりを形成していること」などの紹介があった。
この他、NTUCクラブ(1986年に設立されたNTUCの12ある社会企業の一つで、レジャーと娯楽を受け持っており、安価でレクリエーションの機会を提供し、そのことで労働運動の強化に寄与することをミッションとしている)や、NTUCインカム労組も訪問した。
NTUCインカム労組からは、第一世代は利益もあげないし、労働者も大事にしないという考え方、第二世代は利益をあげてメンバーに貢献するという考え方、 第三世代は社会的企業という考え方で、社会的な目的は変わっていないものの、協同組合の形態は変わってきているとの説明があった。特に、シンガポールで は、グローバルな保険会社と戦わなければならず、買う内容を強調した戦略が求められるようになってきているとのことであった。現在、「文化革命」と呼んで いて文化自体を変えようとしているということで、オンラインを活用したしくみ等により、若い人たちをターゲットにしたり、商品も高品質化をすすめたりして いるとのことである。「100%新しい企業に生まれ変わろうとしている」との言葉が印象的であった。なお、シンガポールでも協同組合としての税制面での優 遇幅はなくなってきているようだが、アドバンテージということではやはり労働組合とのつながりが大きく、NTUCがバックにいて存在が保証されており、し かも、政労使という三者構成の枠組みがきっちり機能しているので、結果的に政府の保証も得ていることになるとの説明があった。また、メンバーが常に特権を 受けられるようにしなければならないということで、「LUV」という組合員むけの掛金の安い商品を用意しているとの紹介もあった。なお、NTUCインカム では、パブリック(一般加入者)・メンバー(職域加入者=労働組合の組合員)ともに商品の掛金は基本的に両者で同一であるのに対し、利益は徹底的にメン バーのみに還元されている。パブリックは基本的に高所得者が多いということで、中低所得者が多いメンバーのみに利益を還元することで、結果的にNTUCイ ンカムが社会保障に代わる所得分配機能も有していることがわかった。

SIEU(シンガポール保険労働組合)
冒頭、政府が実行している「Jobs Credit」(会社に雇用の義務を守らせるためのもの)と「Spur」(職業訓練期間中の補助)という2つのプログラムの紹介があった。また、保険産業 への特徴的な影響として、生保は「セールスが減少しており、投資に直結する商品が売れない中、トラディショナルな商品に回帰する傾向があること。また、金 融危機を受けて、以前は政府とMASの規制に対して行き過ぎではないかという声もあったものの、現在は『規制があって良かった。そのおかげで破綻が避けら れた』という捉え方がされていること」、損保は「海運の落ち込みが激しく、投資のリターンも戻ってこない状態となっているが、業界全体としては悪い状況で はないこと。ただ、自動車保険損害率が悪化していることや、不法入国者などによる業務上災害保険への意図的な請求が増えていること」などの報告があった。

SBEU(シンガポール銀行労働組合)・SBOA(シンガポール銀行上級職員協会)
SBEU、SBOA共に「良好な労使関係の構築」、「労働条件の改善」、「企業の発展」の3つを共通の目的としているとの紹介があった。そのうえで、銀 行産業への特徴的な影響として、「現在の状況はそこまでひどくはないものの、サービスインクルメントの交渉は9月まで据え置きとなっていること。また、経 営側の意向として労働組合に助けてもらいたいということがあり、例えば休日に働いても代休で処理していること」などの説明があった。なお、顧客との関係と いう点では、間違いなくリーマンの破綻で人々の考え方は変わり、MASによる規制の結果、銀行として投資性商品を扱えなくなったとの報告もあった。さら に、MASは日本の金融庁と同様にかつては資産査定がメインだったものの、最近では商品の売り方を含むコンプラインスを重視する傾向があり、そうした観点 での職員教育まで求めてきているとのことであった。

DBSSUDBS銀行労組)
金融危機による影響として、DBS銀行では昨年人員削減が行われたものの、該当者に新しい職に就いてもらえるように、DBSSUはNTUCと一緒に 「e2i」を通じて協力しているとの紹介があった。シンガポールでは最初の四半期で約10,000人が人員削減にあったが、そのうち約1/3が労働組合の 組合員で、DBS銀行が一番多いとのことである。2008年に、政府が実施するベイビーボーナス(子育て援助)口座を他の銀行が引き受けるようになったた めで、関連取引もすべてその銀行に移ってしまうことが大きいとのことであった。また、セールスはダウンしていて、MASの規制によって販売スタイルも変わ り、具体的にはサービスにフォーカスが集まっているとの報告もあった。

シンガポール通貨庁(MAS
金融危機によるシンガポールにおける損保への影響として、シンガポールの経済は全体的に日本と似ており、例えば貿易の落ち込みにより海運業が落ち込んで いる。一方で、建設ラッシュにより建設業は好調であるなど日本との差異も説明があった。そのうえで、損害率の悪化から自動車保険料が高騰しており、適切な ロスコントロールしなければならない問題や、高齢化がすすむ中での適切な医療保険の提供という課題があるとの報告があった。ただし、幸いシンガポールでは それほど金融危機によるダメージはなく、それはサブプライム関連商品をあまり積極的に買っていなかったという事情によるようである。しかし、他の投資家は “津波”(今回の世界的金融危機)で多くの損を被ったため、MASとしてはコアビジネスにフォーカスするよう、すなわち保険会社は保険業に特化するように 指導しているとのことであった。また、グローバル化がすすむ中での監督する立場としては「すべての領域に関心を持っている。どこかに集中して監督するより 全般にわたって強化することが重要」とのコメントがあった。さらに、日本の金融庁とは緊密に連携をとっていてお互いに情報交換を行っており、「今後はより アジア全体を重視したい。国際的基準を策定する時に金融庁との連携は重要であると考えている」との意向が示された。なお、消費者教育にも力を入れており、 新聞の紙面を活用したり、コミュニティーセンターに出向いたり、また、学校レベルから教育をスタートしたりしているとのことであった。この点に関しては、 保険会社がセンターを立ち上げて紛争の調停にあたっているものの、MASとしてはもっとお客様の声を聞いて問題が起きないようにするよう指導しているとの 説明があった。

まとめ(前進するUNI-LCJ金融部会)
MASからは日本の金融庁と緊密に連携をとっており、そのうえで、今後はよりアジア全体を重視したいとのコメントがあった。当然、労働組合側もUNI- Aproの枠組みでの情報の共有化と一層の連帯が重要となる。そのためにも、UNI-LCJ金融部会は、金融庁をはじめ様々な組織へのアクセス力、政労使 の三者構成での発信力を強化することで、労働組合の存在感を拡大していかなければならないと自覚する。アジア各国には日本から多くの金融機関が進出してお り、日本の経営方針がアジア全体に影響することになる。企業内労使関係でもそうしたことを念頭に置いて労使協議を行わなければならない。
金融行政が消費者契約者保護やサービス面を重視する傾向にあるのは恐らくアジア共通である。金融商品は形がないことから、言わば「信頼」を売っていること になる。そこに携わる従業員が顧客からの「信頼」に足る存在でなければならない。経営者が「ヒト」である従業員を大事にすれば、従業員も「ヒト」である顧 客を大事することができる。逆に言うと、従業員を大事にできない企業が顧客を大事にできるわけがない。したがって、企業戦略としても、人材育成のための教 育や安心して働けるための労働条件を整えるための投資は惜しむべきではない。一度培った「経営と従業員」、「従業員と顧客」の信頼関係は簡単に崩れること はない。そうした確かな信頼関係を一つひとつ積み上げていくことが「責任ある持続可能な金融システム」の構築につながると確信する。


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