今日の英雄は明日にはいない:永久に公正な賃金を

本記事は、世界のあらゆる社会分野のOECD専門家やオピニオンリーダーがCOVID-19危機について議論し、今後に向けた方策を考えるシリーズの一部である。我々がこの重要な難題に立ち向かっていけるよう、分野を超えて専門的知見を交換することを目的としている。提起された意見は、必ずしもOECDの見解ではない。原文はこちらから(OECDフォーラムネットワーク、2020年7月21日掲載)

UNI書記長 クリスティ・ホフマン

世界の労働運動のリーダーとして、この数ヶ月間で私は何度も同じことを耳にしてきた。「喜ばしいことに、ついに労働者は本来受けるべき評価を得ている。多くのメディアが労働者の働きを取り上げ、人々は支援の気持ちを示している。」 実際、メディアはパンデミックの間に来る日も来る日も、「日々の英雄」は見過ごされ正当に評価されてこなかったと報じてきた。

日々の英雄とは、我々の地域社会に食料が行き届くようにしている食料品店の従業員のことであり、病人や障がい者、高齢者に不可欠な支援を行っているケアワーカーのことであり、病院やバス、公園や街頭が安全で清潔であるよう尽くしている清掃ならびに警備労働者のことだ。

そのほとんどが女性であり、人口に占める割合に比べて極端に多い人種的・民族的マイノリティの人々が、個人用防護具も支給されない中、こうした仕事に従事している。多くの場合、有給の病気休暇がないからである。仕事をするため、自分自身と家族を危険に曝しているのだ。毎年出される『OECD雇用アウトルック』も、女性やマイノリティ、低賃金労働者の働きによって、社会がコロナ危機を乗り切ろうとしていることを認識し、次のように述べている。「リモートでは提供できない必要不可欠なサービスに従事するいわゆる『最前線の労働者』は、低賃金であることが多い。」

だが、こうした労働者に対する世間の認識が高まった一方で、こうした低賃金の仕事の基準を押し上げるべく実質的な取組みがなされているのか、疑問である。実際には、パンデミック中、労働者を雇用し続けるために、わずかばかりの「ボーナス」の支払いすら使用者が撤回しているため、多くの労働者の賃金はむしろ下落しそうである。

雇用危機に直面して:『OECD雇用アウトルック』からわかる重要な点

例えば米国では、Kroger 、Whole FoodsやTrader Joe’sなどの40以上の小売チェーンが「英雄賃金」の支払を終了すると発表している。英国の大手スーパーマーケットチェーンのTescoは、国内のCOVID-19感染者が増加し続ける中、5月30日で10%の感謝手当を打ち切った。ドイツに本社を持つAldiの特別賃金は4月末で終了したが、コロナの危険は今も高まっている。

これは想像を絶する冷酷な仕打ちである。感染の危険がなくなったわけではないことは明らかであり、実際、食料品店の従業員の緊張感は高まり、彼らの受ける嫌がらせは増加しているのだ。従業員は、顧客に対してマスク着用を呼びかけることを求められているからだ。

だが、英雄賃金への注目は、もっと大きな点を見落としている。命取りのパンデミック中に業務の重要性を証明した労働者は、危機迫る間だけではなく、恒久的に公正な賃金を受け取るべきなのだ。

スーパーマーケットの一時的な「英雄手当」は、労働者と家族が安心して暮らせる賃金の代わりにはならない。世界中の労働組合がさらなる賃金を要求しているのは、このためだ。英国のUSDAW、カナダのUNIFOR、オーストラリアのSDA、米国のUFCWといった労働組合は皆、食品小売労働者の賃金引上げを求めるキャンペーンを展開している。ドイツのIG BAUは清掃労働者の賃金引上げを要求しており、米国のSEIU やペルーのSITOBURも同様である。アルゼンチンではSindicato de Salud Pública de la Provincia de Buenos Airesがケアワーカーの雇用と賃金確保を求めて闘い、勝利した。同様に、多くのケアに関わる組合がグローバルなキャンペーンに向けて準備を行っている。

こうした闘いは、エッセンシャルワーカーの必要不可欠な権利の確立に向けた一連の要求をめぐる、グローバルな動きの一環である。不可欠な権利とは、団体交渉の拡大、尊厳ある賃金、安全な仕事、そして特に米国と英国では有給の病気休暇のことである。

経済が良質な雇用をかつてなく必要としているこの時期に、必要不可欠な仕事を公正に評価することで、何百万もの人々が貧困から抜け出すことができるだろう。最前線の労働者を保護しながら、地域を守ることができるだろう。そして力と富の均衡を、一握りの者から大多数へとシフトする力になるだろう。

近年絶え間なく繰り返されてきた不平等の事実を我々は知っている。過去30年間、世界経済に占める労働者の割合は減少し、その理由の少なくとも半分は団体交渉の減少である。富の不均衡は、現代社会がかつて経験したことのないレベルにまで達している。世界で最も裕福な国、米国における「ワーキングプア」の数は爆発的に増加し、10世帯に1世帯以上が該当する。そして不安定雇用の増加により、その数は世界中でいっそう悪化している。

そうして我々の社会は、実質賃金が何十年も横ばいで、ラリー・サマーズのような著名な経済学者も、公正な条件を作り出すためにはもっと多くの労働組合が必要だと主張するに至った。改訂版「OECD雇用戦略」では、弾力的な労働市場を作り出し、不平等と闘う上での団体交渉の中心的役割が認識されている。昨年OECDは、強力な組合と調整された団体交渉は、ソーシャル・グッド(社会を良くするもの)であり、民主主義と社会の結束のために必要であるとの認識を明確にした。またコロナ危機の最中にOECDは、パンデミックにより露呈した問題の長期的解決策として、長期介護部門でのさらなる団体交渉を求めている。「雇用アウトルック2020」においても、社会パートナー、つまり労働組合と使用者団体が危機の間に果たす中心的役割を評価している。

我々は今、歴史的に類い稀な瞬間を生きている。未来を変える真の選択と不平等に関する取組みを行うには、良い機会だ。エッセンシャルワーカーの多くが、社会で最低の賃金しか得ていない。多くの場合は有給で病気休暇を取れず、国によっては適切な医療さえ受けられない状況だ。我々はこれまでの道を歩み続けたいのか?

スイスで保健庁を管轄するアラン・ベルセ内務大臣も最近、次のように問いかけている。「我々は、今回コロナ危機を経て明らかになったエッセンシャルワーカーへの酷い扱いを是正していく政治的意思を持つのか?それとも、『システム上、重要な』職業の人々に対する敬意を、安っぽい美辞麗句へとこっそり転じてしまうのか?」

エッセンシャルワーカーは、もっと多くを得て良いはずだ。彼らに必要なのは、感謝のしるし以上に、彼らの仕事を評価し、何が必要不可欠であるかを見極める我々の経済が変化していくことだ。グローバルに今、このことを考える時だ。

仕事をどのように評価するのか、リセットボタンを押すのは今だ。