
第11回目を迎えたUNI Apro東アジア労組フォーラムが、日本、韓国、台湾、モンゴル、香港各国・地域の労働組合代表129名が済州島に集い、保護主義、AIの進展、少子高齢化、ジェンダー平等、若者のエンパワメントなど、労働者を取り巻く多様な課題について意見を交わした。各国からは、民主主義や労働権の危機、女性や若者の参画促進、国際連帯の重要性が強調された。基調講演では、保護主義の経済的影響と労働界の対応が論じられ、配送業やメディア業界における過酷な労働環境や表現の自由の問題も共有された。また、ジェンダー平等に関する取り組みとして、女性の意思決定参画や健康支援制度の整備が報告され、若年層のキャリア支援や組合活動への参加促進の重要性も確認された。本フォーラムを通じて、各国の労働組合が直面する共通課題への理解が深まり、持続可能で包摂的な社会の実現に向けた国際的な連帯の強化が再確認された。なお、次回の開催年と開催地:2026年に台湾となる。
1日目
■開会式
冒頭でホスト国を代表してキム・ヒョンスン(IFIU委員長)UNI-KLC議長が、済州(チェジュ)は正義と和解の象徴として、世界にその存在を知られるようになった。この島は、かつての苦難を乗り越え、民主主義を守り抜いた歴史を有している。米国発の新たな経済戦争の波が押し寄せ、世界的な危機が労働者に重くのしかかっている。しかし、労働者はこれまでも幾多の困難を連帯の力で乗り越えてきた。済州に集った我々は、改めてその連帯の精神を確認し、平和で公正な社会の実現に向けて歩みを進める決意を新たにしている。済州の風は、抵抗と希望の風であると連帯挨拶を述べた。
■基調講演
テグ大学 経済学部 キム・ヤンヘ准教授は、日本・台湾・韓国は輸出主導型経済を築いてきたが、現在の保護主義の台頭により国際協力が困難になっている。韓国・慶州でのAPEC開催を前に、米韓関係への注目が高まる一方、APECの交渉は実質的成果に乏しいとの批判もある。トランプ前大統領の関税政策は、統治手段として機能し、インフレや投資コストの上昇を招いた。中国との資源を巡る対立や、同盟国への圧力も強まっている。再登場の可能性があるトランプ氏の影響で、国際通商体制の不安定化が懸念される中、各国労働界の連携と米国労働界の対応が重要となる、と言及した。
■テーマ別セッション:4つのテーマについて、各国の加盟組織より報告が共有された。
サブテーマ1:東アジアの労働者が直面する現在の政治的、経済的、社会的状況と課題
- 日本(西谷涼子 JAW国際局局長):自動車産業は関税戦争の影響が懸念され、国内販売も2012年以降500万台を下回っている。2035年までに電動車化が進む中、公正な移行が重要である。約3万点の部品で構成される自動車は、サプライチェーンの安定が不可欠。自動車総連は税制の見直しや投資支援を求め、国内需要の喚起と持続的な発展に向けて取り組んでいる。
- 韓国(ナ・ヨンミョンKHMU保健医療労組企画室長):米国の保護主義的な圧力により、韓国経済は関税や投資条件で不利な状況に置かれ、成長率の低下や雇用不安が広がっている。社会では高齢化や格差、極右勢力の台頭も進行中。こうした中、労働組合は労働時間の短縮、非正規職の正規化、地域交渉の活性化、医療・教育負担の軽減など4つの戦略を掲げ、組織拡大と政治的連携を強化しながら、内需中心の経済と国際連帯の構築を目指している。
- 台湾(リン・イーフン CPWU国際部長):台湾は保護主義の圧力や米国との交渉の前提に直面し、経済安全保障の強化が求められている。IT産業は成長しているが、2025年には超高齢社会に突入し、人口の30.6%が高齢者となる見通しで、経済への影響が懸念される。賃金の低下や労働力不足も課題であり、58%の人が対中貿易を望んでいる。今後は、エネルギー・AI・産業交渉など多角的な政策と社会の体系化、リスク分散、デジタル化による安定的な発展が必要である。
- モンゴル(バンディ・バヤガルマー ICN労組):2024年、モンゴルの貿易総額は274億ドルで、中国とロシアが80%以上を占める。輸出は石炭や銅など鉱物資源が中心。2025年、トランプ米大統領は全輸入品に10%の関税を課す政策を導入し、モンゴルのカシミヤなど主要輸出品に影響が及ぶ。これにより物価上昇や経済不安が懸念され、国内では教師や医師による賃上げ要求のデモが起きている。
- 香港(マイケル・シウ RCCIGU): 2025年4月、トランプ米大統領は「解放記念日」として相互関税の停止を発表したが、中国には145%の関税を課し、香港・マカオにも影響が及んだ。香港では米国が中国製品と同等の関税を適用し、株式市場が急落。香港政府はWTOに提訴した。労働組合は保護主義の影響から労働者の権利を守るため、企業や政府との交渉を強化し、国際連携を通じて公正な貿易ルールを求めている。
2日目
サブテーマ2:人口構造危機-少子化、雇用年齢や定年年齢の延長、年金制度改革および年金基金の管理
2-1)人口構造危機と少子化:労働組合は何ができるか?
- 日本(鈴木基子 JP労組中央執行委員):日本郵政グループは、少子高齢化による労働力不足や業務量の減少に直面している。社員数や新卒採用数の減少、郵便物や保険契約件数の減少が続く中、JP労組は65歳定年制度や短時間勤務制度、育児・介護休業応援一時金などを導入。地域ニーズに応じた柔軟な働き方や効率的な運営体制を提言し、持続可能な事業と安心して働ける環境づくりに取り組んでいる。
- 韓国(シン・スンイル FKMTU):少子化は財政赤字だけでなく、社会保障制度の持続性に関わる深刻な問題である。特に交代勤務の現場では支援制度が機能せず、代替人員の確保が課題となっている。労働組合は賃金問題にとどまらず、子育て支援や制度改善に取り組む必要がある。少子化は東アジア全体の共通課題であり、労働組合の連帯によってこの危機を乗り越えることが求められている。
- 台湾(シューチーチェンCPWU青年活動委員会議長):台湾の公共テレビとその組合員構成、同労組による長時間労働是正と勤務形態の多様化に向けた取組みについて、概説した。組合として次の勤務までの休息時間の確保、等に取組んでいる。高齢化が進む中、交渉によって年5日の有給の介護休暇を獲得した。また「報道者」について、残業削減に向けて、超過勤務指示が直前に行われた場合には代休時間を増やすことを協約で定めた。
- 韓国(キム・ジンホン KFIU副委員長):韓国の金融労組KFIUは約10万人の組合員を擁し、産業別交渉を通じて労働環境の改善を推進している。2002年に週5日勤務制を導入し、2025年には週4.5日勤務制を提案。金曜日午後の自由時間は地域経済の活性化や少子化対策に寄与する。韓国の労働時間はOECD平均を上回り、AIの進展により事務職の働き方も変化している。KFIUはAIによる人員削減ではなく、労働時間の短縮と仕事の分かち合いを選択。6か月の交渉の末、金曜日の1時間短縮を実現し、制度化に向けた議論を開始した。
- 香港(チェン・ライハ RCCIGU書記長):香港の出生率は世界最下位レベルで、経済的・政治的圧力や雇用環境が大きく影響している。教育環境を求めて移住する家庭も多く、若年層の流出が社会構造に影響を与えている。1997年以降、中国本土からの入国者は約203万人に達し、人口減少を部分的に補っている。2023年には新生児1人につき2万香港ドルの給付制度が導入されたが、効果には限界がある。労働組合は育児休暇や家族支援制度の拡充に取り組み、民主主義と自由の保障が出生意欲に直結することを訴えている。
- 雇用年齢や定年年齢の延長
- 日本(市川勝也 生保労連 中央副書記長):生保労連の組合員は約70%が営業職員、90%が女性で構成され、年7回の労使交渉で賃金や雇用制度を協議している。高齢化に伴い、65歳以降も働ける制度が整備されつつあり、一部企業では70歳定年・同水準の処遇を提案。組合員からは評価の声がある一方、若手の働きやすさや退職金制度への懸念もあり、慎重な制度設計が求められている。
- 日本(西川由起 UAゼンセン流通部門執行委員):UAゼンセン流通部門では高齢化と人手不足に対応し、定年延長や再雇用制度の整備を推進。多くの企業が60〜65歳定年で、再雇用は97%が導入済み。「まいばすけっと」では75歳まで働ける「シニアパートナー制度」を導入し、健康診断や社保加入も実施。組合は、働き方の選択ができる社会の実現を目指している。
- 台湾(ワン・スーユCTWU常任理事):台湾では高齢化が急速に進む中、高齢者の労働参加率は約10%と低く、労働力活用が課題となっている。CTWUは定年延長や再雇用制度の改善を提言し、2024年には抗議活動も実施。政府は補助金や再訓練支援を行っているが、年齢差別や早期退職の問題も残る。中華電信では従業員の3分の1以上が51歳以上で、若年層の採用が進まず、CTWUは柔軟な勤務制度や再教育の充実を通じて持続可能な雇用を目指している。
- 持続可能な国民年金または年金基金の管理
- 日本(金織すみえ 損保労連 中央執行委員): 日本の年金制度は3階建てで、公的年金(国民年金・厚生年金)に加え、企業年金やiDeCoなどの私的年金が老後を補完している。少子高齢化により公的年金の給付水準は低下傾向にあり、私的年金の重要性が高まっている。企業年金は確定給付型(DB)から確定拠出型(DC)への移行が進み、損保労連はDC制度の改善や投資教育の充実を企業に求めている。
- KFSWU書記長):韓国では出生率の低下と高齢化が進み、2060年には労働人口1人が高齢者1人を支える社会になると予測されている。年金制度は3階建てで、退職年金の準備金は2024年に431兆ウォン、収益率は4.77%。政府は2025年に基金型退職年金制度の導入を提案し、NPSによる管理や専門機関の設立を検討。安定性と収益性の両立を目指し、海外事例も参考に制度改革が進められている。
- 台湾(チャン・フイチェン CTWU主任):韓国では出生率の低下と高齢化が進み、2060年には労働人口1人が高齢者1人を支える社会になると予測されている。年金制度は3階建てで、退職年金の準備金は2024年に431兆ウォン、収益率は4.77%。政府は2025年に基金型退職年金制度の導入を提案し、NPSによる管理や専門機関の設立を検討。安定性と収益性の両立を目指し、海外事例も参考に制度改革が進められている。
3-1)UNIの3Mキャンペーンとジェンダー平等に関する組合活動
- 日本(浅野祥 情報労連中央執行委員):日本ではジェンダー平等の整備が遅れており、情報労連は1998年から女性参画を推進。2025年度からは「第2次ジェンダー平等推進計画」を策定し、クォータ制やトップの発信で数値目標の達成を目指している。中央執行委員会の女性参画率は46%、KDDI労組では30%以上の登用を目標に掲げ、職場の風土改革が進行中。今後はダイバーシティ推進と心理的安全性の確保に取り組む。
- 日本(大西裕加 UAゼンセン):UAゼンセン総合サービス部門では女性組合員が60%以上を占める一方、役員比率は27%と低く、意思決定への参画が課題。2015年にダイバーシティ推進委員会を設置し、2024年からは委員会に女性枠を導入。「Uni女会」ではネットワーク構築やリーダー育成を進め、更年期などの課題も共有。女性リーダーワーキングチームによる研修も実施し、意思決定への女性参画拡大を目指している。
- 台湾(カン・ウエンチー CPWU 三重分会理事長):台湾では女性の健康に配慮した休暇制度が整備されつつあり、月経休暇は法的に保障されているが取得率は低い。台湾金融労連は2021年に更年期休暇を提案し、2025年には診断書不要の原則が確立。制度は一般化し、企業が拒否できない仕組みとして定着しつつある。労働組合は職場文化の改善と法整備を通じて、女性が安心して働ける環境づくりを目指している。
3-2)若者のエンパワメントに関する現状報告
- 日本(北堀卓思 全信連議長):日本企業では健康経営や社内副業制度など、従業員を尊重した柔軟な働き方が広がっている。信託銀行業界では専門性が高く、若手の焦りも見られる中、全信連はキャリア支援として異業種交流会や座談会を開催。若者が自己肯定感を高め、主体的にキャリアを築けるよう支援しており、労働組合はその後押し役として重要な存在となっている。
- 台湾(イェ・チンユ CTWUストライキチームメンバー):台湾では一人当たりGDPが34,000米ドルに達する一方、若年層の賃金は低く生活に余裕がない。CTWUは退職金制度の改善や雇用主拠出金の引き上げを求め、2023年には2,000人以上が集会に参加し成果を上げた。青年キャンプや交流イベントを通じて若者の参加意識を高め、組合の力強化と社会への好影響を目指している。
サブテーマ4:特別報告
- FSU-全国クーリエ労組クーパン本部議長):韓国のクーパンは自社物流子会社CLSを通じて垂直統合型配送モデルを展開し、365日・深夜配送を標準化。業界全体に過剰なサービス要求が広がり、CLSでは週60時間超の労働が常態化し過労事故も発生。2021年の社会合意を守らず、労働組合は夜間作業の制限や強制休息の法定化を求めている。「スピードより命」を掲げ、持続可能な産業構造の構築が急務となっている。
- 韓国(リー・ホーチャンNUMW委員長):韓国では虚偽情報への制裁強化が進み、最大10億ウォンの懲罰的損害賠償を可能とする法改正が議論されている。判断の曖昧さから言論の自由が抑圧される懸念もあり、報道への捜査がメディアの萎縮を招いている。NUMWは表現の自由を守るため法改正に反対し、慎重な制度設計と社会的議論の必要性を訴えている。
■閉会式
第11回東アジア労組フォーラムには、日本、韓国、台湾、香港、モンゴルから129名が参加。保護主義の台頭、グローバル秩序の変化、少子高齢化、ジェンダー平等、若者のエンパワメントなど、労働者を取り巻く課題について活発な議論が行われた。
基調講演では保護主義の影響と労働界の対応が取り上げられ、各国からは政変、産業構造の変化、生活費高騰への対応が報告された。特別報告では、過労死対策や言論の自由の擁護についても認識が共有された。
韓国加盟協議長のキム・ヒョンスン氏はクロージングメッセージで、「韓国の悩みを分かち合えたことに感謝する。保護主義や人口減少問題は共通の課題であり、皆で解決策を見出し、共に道を切り拓いていこう」と語った。
次回フォーラムは2026年に台湾で開催される予定で、CTWUとCPWUの両委員長がホスト国として歓迎をしますとメッセージを参加者に送った。
なお、各セッションでは以下の方々が司会を務めた。
- サブテーマ1:(韓国)シン・キオン KFIU国際担当部長
- サブテーマ2:(日本)豊福麻実 労済労連 副書記長
- サブテーマ3:(台湾)トゥー・ユーウェン CPWU書記長
- サブテーマ4:(韓国)キム・オクラン FKMTU政策企画部長
- 閉会: UNI-KLC ジェイ・チョイ事務局長