世界選手会、東京オリンピックに関して意見表明

安全にオリンピックを成功させるためには、基本的な考え方だけではなく、包括的な感染症防護対策が不可欠

世界選手会は2月上旬、7月23日に開幕予定の東京オリンピックにおいて、人々と選手の健康を適切に保護するためには、基本的な考え方だけでは足らず、きちんと財源の確保された包括的なCOVID-19防護対策が不可欠であると表明した。

60か国以上、100を超える選手会を通じてプロスポーツ界85,000人の選手を結集する世界選手会は、安全にオリンピックを成功させるために国際オリンピック委員会(IOC)が取組むべき、重要な基準も提示している。この基準には、パンデミック発生後、数週間のうちに多くのプロスポーツが競技を再開することができた経験と詳細な交渉が反映されている。

世界選手会の声明は、2月初旬にIOCが、各種国際競技連盟、メディア、放送局に向けて発表した文書や、2020年12月に発表したIOCガイダンスを参照しており、IOCが2月に発表するいわゆるアスリート向け「プレイブック(ルールブック)」公開に先立って発表された。IOCは、大会を開催するかどうかではなく、いかに開催するかが重要であるとの考えを曲げていない。

世界選手会の加盟組織は、サッカー、バスケットボール、ラグビーといった主要なプロのチームスポーツを含む、オリンピック出場選手を代表している。

ブレンダン・シュワブ世界選手会担当局長は、次のように述べている。

「世界選手会は、健康に関する世界中の努力を無駄にすることのないように、安全でフェアなオリンピックを成功させるという共通の目標をIOCと共有している。日本国民と世界中の選手には、これを下回る事態はふさわしくない。しかし、成り行き・状況任せはあり得ない。これを実現するために、いかなる費用も惜しまれてはいないことを皆が知る必要がある。」

東京オリンピックは、世界的な新型コロナウィルス感染症拡大に打ち勝つための国際社会全体の取組みの重要な分岐点に開催が予定されている。感染率・死亡率の驚異的な増加や、より強力な感染力を持つ新たなウイルスの出現に対する対応、そしてワクチンの世界的な展開は、スポーツではなく公衆衛生を第1に考えて対処する必要がある。

「IOCのトーマス・バッハ会長は、(1)ワクチンの開発、(2)検査の改善、(3)多くのプロスポーツの競技再開の3点が、東京オリンピックの安全な開催についてIOCに自信を与えてきたとしている。しかしIOC独自のガイダンスでは手続きや検査率も不十分で、プロスポーツの経験から学ぶことをしていない。更に、ワクチン接種の展開にあたり、より弱い人々やエッセンシャルワーカーのニーズよりも選手を優先させるべきではない。」

シュワブ担当局長は続ける。「各種選手会は、パンデミック発生当初から、人々と選手の健康を第1に考え、たゆまぬ努力をしてきた。公衆衛生、感染症、疫学、労働安全衛生、選手育成、メンタルヘルス、福祉等の分野の専門家とも協議を重ねたことで、高リスク環境にある高リスク集団の選手を含め、COVID-19の有害な影響から選手を保護するための包括的で洗練された競技再開プロトコル(RTPプロトコル)の交渉が可能になった。」

「プロのチームスポーツの経験は、その成功の鍵をIOCが十分に認識し、五輪レベルにまで拡大してこそ、IOCにとって貴重な前例となり得る。つまり、詳細なプロトコルの厳密な実施、多額の財源投資、そして何よりも、いつ、どのように、なぜ変更する必要があるのか等を含め、取られる対策について選手やその代表者との交渉及び継続的なコミュニケーションが欠かせない。」

「これらの基本が守られることなく、多くのスポーツイベントが、人々や選手を許容できない回避できたはずのリスクに晒してきた。同様のことをオリンピックで行えば、スポーツの社会的地位を脅かすことになるだろう。」

世界選手会とその加盟組織は、人々と選手の健康を第1に考え、こうした事態が起こらないよう尽力している。意思決定プロセスにおける信頼構築に向けて、我々の知識と専門性を共有するため、我々はIOCとの議論にオープンである。同時に各種選手会は、選手のキャリアと生活が適切に保護されるよう、必要な措置を講じていく。

東京オリンピック開催に向けた最低要件

安全でフェアな東京オリンピック開催に向けた義務と責任を確実に果たすため、いくつかの最低限のコミットメントがIOCに求められている。

RTP(競技再開)プロトコル

RTPプロトコルは、多くの場合何百ページにも及び、COVID-19に関連するリスクから選手や接触可能性のある全ての人々を保護するために策定された詳細な対策が含まれている。また、以下のような基本的な疑問にも答えている。

  • 選手及びコーチや医療スタッフ等の必要不可欠なスタッフは、無菌環境を作り、選手間の感染を防ぐため、「隔離ハブ」に置かれるべきか。
  • 検査と接触者追跡対策。
  • 競技やゲームの長さ等、従来の競技フォーマットを変える必要があるかどうか。
  • 検査の結果、陽性であれば通常、チームメイトや最近の対戦相手を隔離する必要が生じるが、延期とする場合にはどうなるのか。多くのスポーツで「フレキシブルなスケジュール調整」が不可欠な特徴となっている。

日本発着の安全な渡航手配と保護対策の確保

国境を超える移動は、パンデミックにより壊滅的な影響を受け、世界中で競技の休止が余儀なくされた。プロスポーツ界でも国際的な競技会の再開は最後になった。多くの選手が陽性反応を示し、その後の競技会に混乱を引き起こした。COVID-19が公衆衛生全体にもたらす、より広範なリスクに鑑み、現在多くの国で、入国時に隔離義務を課すようになっている。IOCは、参加する全ての各国オリンピック委員会とその政府との間で、日本発着の安全な渡航に関わる取決め及び財源確保に取組まなければならない。例えば、隔離義務、隔離場所や期間の評価や、発生した費用がカバーされるようにすること等だ。得られる知識に基づけば、IOCの現在の指針に書かれている、東京到着時に全ての選手は隔離を必要としないという要件を除外するのは、時期尚早である。

厳格かつ有効な検査体制の提供

オリンピック出場予定の約11,000人の選手と、選手が接触する可能性のある選手村や大会のサポートスタッフのために、包括的な検査体制が保証されなければならない。多くの国におけるパンデミックの状況に鑑み、今は1日に数回の検査を行うプロスポーツチームもある。オリンピックでは、このような定期検査実施のための財源措置が必要であり、緊急の予防・改善策を周知できるよう検査結果は迅速に得られるようにしなければならない。

日本における「COVID-19安全研修」、競技・宿泊環境の保証

基本的な公衆衛生上のアドバイスやRTPプロトコルに加え、最低でも、公共交通機関を利用した移動や、選手がウィルスに晒される可能性のある状況での移動は禁止すべきである。全ての選手には宿泊用個室が提供され、必要とされる社会的距離が保たれるよう、選手村の定員管理のための明確な制限と手順が整備され、有効な個人用防護具が容易に利用できるようにしなければならない。

必要な治療やケアの選択肢を利用できるようにすること

COVID-19検査で陽性反応が出た場合の隔離専用の施設、治療、接触者追跡のための手順、緊急時における出身国への医療搬送が含まれるべきである。同時に、COVID-19とは関係ない傷病に通常必要とされる、あらゆる治療やリハビリテーションを受ける権利が損なわれてはならない。今回のオリンピックに関しては、比類なく困難な状況に配慮し、選手のメンタルヘルスに対する支援も含まれるべきである。

出場権を得た全ての選手のための安全でフェアな競技会

出場資格のある全ての選手が競技できるようにすること、中止となった予選に関し公平に対処すること、日本への到着前後に選手が定期的なトレーニングプログラムの全てに参加できるようにすること、選手が心身のコンディションを整えるための時間が与えられること、が必要である。

オリンピックから生じるリスクを選手が負わないようにする

選手は、免責同意書への署名またはその他の手段を通じ、オリンピックへの参加により生じるリスクを負うことを求められてはならない。明らかな健康リスクがあるにもかかわらず、経済的・商業的判断が大会開催を継続する決定の重要な要素となっているが、選手は競技に出場する上で報酬を支払われるわけでもなく、またIOCによって潜在的な報酬にも制限が課されている。世界的な健康危機の最中にあっては言うまでもなく、しかしいかなる時であってもオリンピックから生じる経済的・健康的リスクを選手に負わせるのは明らかに不当であろう。

2月初旬にIOCが、国際競技連盟(IFs)、メディア、放送局に対して発表した文書では、詳細は触れられていないが、「あらゆる配慮を払ってもなお、リスクと影響は完全には排除することはできないかもしれない。従って、自己の責任においてオリンピック及びパラリンピック競技大会に参加することに同意する」としている。

オリンピック運動の富を生み出す選手の本質的な役割を考えれば、この条件は選手にまで拡大解釈されてはならない。

国際オリンピック委員会、国際競技連盟、各国のオリンピック委員会、東京大会組織委員会の責任

全ての選手は、東京大会のCOVID-19に関するプロトコルと対策を遵守する責任を持つ。しかし、国際オリンピック委員会(IOC)、国際競技連盟、各国のオリンピック委員会、東京大会組織委員会には、人々と選手の健康を守るという、集団として及び個別の義務と責任がある。IOCが2月初旬に発表した国際競技連盟向けの「プレイブック」には、大会に参加するスポーツの統治機関としての国際競技連盟固有の責任は取り上げられていない。代わりに、世界中の大抵の職場や公共の場で見られるのと似たような参加者の行為に言及した、一般的文書となっている。

次善の策(プランB

IOCは常に、公衆衛生の危機が重大な局面にあることを認識しなければならない。我々全員が期待していた世界的な収束にはまだ至っていない。IOCは、オリンピックを再度延期せねばならない場合には、透明性のあるシナリオを計画しなければならない。短期間でこのような大規模イベントを開催することに伴うリスクを軽減するため、より長期的なスケジューリングの工夫も含め、安全に開催する他の選択肢を見極めなければならない。

UNIのメンバーである世界選手会は、プロスポーツ選手や競技者を組織し、意見を代弁する唯一の国際組織として、60か国以上、100を超える選手会の85,000人の選手を結集している。その役割は、組織された選手の意見が、国際スポーツ界の最高の意思決定レベルに届くようにすることである。