インドにおける労使パートナーシップの普及

2015年から開始した4年間の支援プロジェクトの最終年となるUNIインド加盟協との共同セミナーが、2018年11月18~19日、インドの首都・デリーで開催され、松浦UNI-LCJ議長を団長に9人の講師が参加した。インド側からは、ナドカルニUNIインド加盟協(UNI-ILC)議長、サンジーブ・ステートバンクオブインディア(SBI)労組書記長をはじめ、銀行労組、郵便労組、セキュリティ印刷労組、新聞労組、メディア労組、IT労連等から28人(うち女性5人)が参加した。

セミナー1日目(18日)は、日本人講師から日本の労働運動、格差是正の取組み、労使関係、組織化等について講義を行い、産業別グループに分かれてグループ討議を行った。

日本人講師からの講義

  • 松浦団長(UAゼンセン):「日本の労働運動の概要と今日的課題」
  • 松本講師(損保労連):「“⾮正規雇⽤社員の処遇向上(正社員との格差是正)”に向けた取組み」
  • 栗田講師(JP労組):「日本のパートナーシップ労使関係」
  • 浦講師(情報労連):「青年・女性の組織化」
  • 鈴木講師(自動車総連):「非正規労働者の組織化」
  • 甲斐講師(全信連):「日本の銀行部門におけるフィンテックと雇用への影響、仮想通貨の現状と課題」

グループ討論テーマ

  • 「労働組合の今日的課題」
  • 「家庭、学校、職場、社会における格差、不平等-格差是正、不平等をなくすため、労働組合はどのような役割を発揮できるか?」

社会パートナー対話セッション:「グローバル経済におけるインドの課題と労使による戦略的対応」

セミナー2日目(19日)午前中は、初の試みとして、インドでも模範的なパートナーシップ労使関係を築いているステートバンクオブインディア(SBI)から、アロック・クマール・チョードリーSBIデリー地区統括本部長、インド社会保障協会からプラビン・シンハ事務局長(元FESインド支部長)を招き、「グローバル経済におけるインドの課題と労使による戦略的対応」と題する“社会パートナー対話セッション”を行った。労働側代表として松浦UNI-LCJ議長、ナドカルニUNI-ILC議長、サンジーブSBI労組書記長がそれぞれの立場から意見を述べた。

SBIは、インド国内に約2万の店舗を持ち、銀行部門の利益の25%を占めるインド最大手の国営銀行である。パートナーシップ労使関係の長い歴史を持っており、今回は労使の協力を得て、特別に対話セッションが実現した。

アロック氏は、自由化が進展し益々厳しいグローバル競争に晒される困難な時代を生き延びるためには、労使双方が対立ではなく、市場競争力を高めるため、戦略的・建設的に協力し、イノベーションに対応し労働者への影響を配慮しつつ効率化を図っていくことが鍵となると力説した。

これを受けサンジーブSBI労組書記長は、労働者にとっても困難な時代を迎えており、雇用を守るためには毅然とした態度で臨むが、企業の発展に貢献するため、SBIの良き伝統である対話を軸とした労使関係を維持・強化していくと述べた。

シンハ氏は、現在のインドが直面する課題として、自由化・デジタル化の進展、社会保障の削減、インフォーマル経済及び格差の拡大、労働者の非正規化等を挙げ、企業が健全に存続するためには、労働者の能力開発と生産性向上を支える建設的な労使関係の構築・維持が欠かせないと述べた。

ナドカルニUNI-ILC議長は、UNIの下、サービス産業の労組が、政治・イデオロギー等、様々な違いを乗り越え結集する必要性を繰り返し強調した。国内外のUNI加盟組合とタイムリーな情報・経験交流を行い、UNI Aproや日本が推進するパートナーシップ労使関係構築を推進していきたいと述べた。

松浦UNI-LCJ議長は、日本の高度経済成長の鍵となった生産性三原則の労使合意、UAゼンセンの組織化の進め方、産業別労働組合の役割等について、実践的に分かりやすく紹介した。「枯れた井戸から水は汲めない」との諺を引用し、労働組合として最も優先すべきは「雇用を守ること=企業を存続させること」であり、労働組合も業績向上に向けて真摯に取組むことにより、ひいては企業の発展と労働条件の維持向上につながるとの考えを繰り返し示した。

インド側からは、「欧米の多国籍企業がハイデラバードに多く進出しているが、プロジェクトが終わると労働者を解雇することが多い。過労死も発生している。これに対してUNIや労組はどのように対応しているのか?日本にはこうした労働者を保護する制度はあるか?」、「移民労働者の問題に労組としてどう対応すべきか」という質問が出された。日本からは「経済成長のために、どのような産業の外資系企業を誘致したいか?」と質問する等、活発な質疑応答と意見交換が行われた。

アチャリャUNI Apro書記次長は、UNI Aproが推進する労使パートナーシップ協力の1つの手段として、多国籍企業とのグローバル枠組協定の締結と日本の実践事例を紹介した。

閉会式で、松浦UNI-LCJ議長は、「それぞれ状況は異なるが、雇用を守り、労働条件を良くすることは日印労組共通の課題だ。共にがんばっていこう」とまとめた。

ミリンドUNI-ILC議長は、UNI-LCJ講師陣の貢献に感謝し、インド人参加者に「日本から学んだことを各職場に持ち帰り、他の仲間に共有し組合活動に活かして欲しい」と激励した。また日本側には、「インドに進出する日本企業には是非グローバル枠組協定を締結して、日本の労使関係をインドに普及させてほしい」と期待して、閉会した。

この他、19日午後から20日にかけて、UNI-LCJ代表団は、銀行、郵便局、テレビ・ラジオ局等の職場視察と経営側との懇談、新聞労組役員との意見交換等を行い、インドの様々なサービス産業における労働環境、労使関係等についての理解を深めた。

 


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