5月18~19日、スイスのUNI本部で世界テレコム部会委員会が開催され、日本からNTT労組・加藤委員長、木村国際担当、KDDI労組・上口委員 長・才木事務局長が出席した。委員会は、「経済危機がテレコム部門の雇用等に与える影響」、「通信規制と雇用」、「多国籍企業への対応」等について各国の 状況が報告され、活発な議論が交わされた。
「経済危機がテレコム部門の仕事と投資に与える影響」
ILOとスイスコム戦略局長が招かれ、世界経済危機がテレコム産業の雇用に与える影響について、国際機関と使用者の立場から見解を述べた。
ILO・マイヤーズ産業問題専門家は「ILOは、この不況から脱するには5~6年が必要だと分析、中期的な戦略が欠かせないと考えている。今日の経済危機が失業増加や労働条件の低下につながらないように、労働組合は注意を怠ってはならない」と警告した。
スイスコム・リッツ戦略局長は、「経済危機以前から通信費の収入が低下しており、経済危機により欧州経済の見通しも暗くなった。現在、スイスコムは光ネットワークへの投資はしていない、投資の見返りがないからだ」と説明した。
二名の講演を受けて、加藤委員長は、「テレコム産業は他産業と比べれば直接的な被害は少ないが、産業構造の変化により、テレコム産業という分野が拡大して いる事に留意しなければならない。また、活動の展開にあたっては、従来の政・労・使にILOなど国際機関を加えた“四者”での連携が必要だ」と訴えた。
ラーセン議長は、「長期的な産業の発展のためには光網への投資が必要だが、投資への見返りが保障されなければ出来ないものだ、ここを改善していく必要がある。また、経済危機が雇用削減の言い訳に使われないよう、UNIは監視を強めていく」とまとめた。
「規制、融合、景気刺激対策と仕事」
欧州議会は、「EUテレコムパッケージ」という通信規制政策を策定した。この規制政策はEU諸国に大きな影響を与えることから、UNIはこれまで欧州地域 事務所を中心に熱心にロビー活動を展開してきた。この規制政策がようやくまとまり、文言の中に「労働者の権利と投資の必要性」と入れ込む事に成功した。し かし、当初の狙いであった「NGNやブロードバンドなど新しいネットワークへの投資における事業者のリスク考慮」については、残念ながら記載されなかっ た。欧州議会では7月に選挙が行われ、議長国はフランスからスウェーデンへ変更する。UNIテレコムは、スウェーデン政府への対応はもちろん、新たに選出 される議員へのロビー活動を継続し、労働者を考慮した規制政策の策定に向けて、今後も熱心に取り組んでいく。
イギリスの超高速ブロードバンド
欧州テレコム部会・アスキュー議長(イギリス)が、BTおよび英国の通信政策と、労組の見解について言及した。
イギリスの通信規制機関オフコムは、この景気後退の中であるにも関わらず、BTが超高速ブロードバンド政策を進めるよう、投資を奨励するとの態度を明確に していることを説明し、「労組もこれを歓迎している」と述べた。英国の通信労組は、「将来に向けた通信市場整備は雇用拡大にもつながる」との立場で、投資 を奨励する規制政策に賛同している。一方で、「現在のように将来像が見えない状況では大きな投資はできない。政府は、民間企業に投資を奨励するような規制 政策が必要だ」と指摘した。
日本の法的イニシアチブ
加藤委員長が、産業融合時代の法制度のあり方について、日本の法体系と議論状況を紹介した。「通信と放送、金融、商業などの融合が起こっている。今後、 NGNの普及が見込まれる中で、どのような産業との融合が進むか明確ではないが、通信以外の産業が時にはパートナーとなり、時にはライバルとなる。よっ て、産業融合時代の法制度の見直しにあたっては、個別事業に関する法にとどまらず、法体系全体から検討することが必要だ」と見解を述べた。
「多国籍企業に対する交渉・組織化の優先課題と活動」
UNIテレコムは、テレフォニカ(スペイン)、OTE(ギリシャ)、ポルトガルテレコム、フランステレコムとグローバル枠組み協定を締結しているが、進出 国において協定の内容が遵守されていない状況などが報告された。こうした状況を鑑みて、UNIテレコム部会は、締結企業は協定の実効性を向上させ、未締結 の場合は早急に協定を締結するよう取り組んでいくことを確認した。
また、劣悪な労働条件が多い職場であるとされているコールセンター労働者の組織化に向けて、10月を「コールセンター行動月間」に設定し、世界的なキャ ンペーンを実施することが提案された。これは毎年行われている取り組みで、コールセンターを保有している他部会と合同で、UNI全体で実施しているもの。 具体的な計画は、今後、検討することとなった。
テレフォニカ(スペイン)の動き
委員会では、テレフォニカ(スペイン)の反労働組合的な態度に関する、激しい議論が行われた。当初、今年のコールセンター行動月間は、テレフォニカの コールセンターを対象にした統一キャンペーンを行うことが提起されたが、これに対して、参加者同士で賛否両論の激論となった。
UNIはテレフォニカとのグローバル協定を早い時期に締結し、毎年、スペインの親会社とフォローアップ会議を実施している。母国スペインでは労使関係は良好とのこと。
一方、テレフォニカが進出している国では、様々な労使問題が明るみになっている。メキシコやブラジルなどの中南米では、テレフォニカは「アテント」とい う別会社を設置してコールセンター事業を行っており、全体で10万人以上がアテントで働いているが、各国で労使紛争が多発している。UNIはこれを問題視 し、今年のキャンペーンは「テレフォニカ」を対象に絞ると提案したのだ。
しかし、これに異を唱えたのがスペインの通信労組であった。「スペインでは労使関係は良好なのに、UNIがテレフォニカを敵対視するような世界的なキャ ンペーンを行ったら、全てがぶち壊しだ」と声を荒げた。結局、議論はまとまらず、取り組みの方法・内容とも再検討することとなった。
だが、テレフォニカがUNIとグローバル協定を締結しているにも関わらず、進出国において協定内容が守られていない事実は、留意すべきだ。
独テレコムでも似たような問題がある。本国では労使関係は良好であるが、独テレコム携帯子会社のTモバイルアメリカは、労働組合結成が認められていない。
こうした問題は、協定当事者としてのUNIの調整機能も含め、協定のあり方に関する問題点を示唆している。UNIテレコム部会は、既に協定を締結しているケースでは「協定の実効性を高める」事を目標に掲げているが、本腰を入れて取り組む必要があるだろう。
米国従業員自由選択法への協力要請
米国では労組結成手続きが極めて厳しいものとなっている。労働者の過半数の署名を集め、連邦労働関係局(NLRB)に提出する。NLRBが対象職場で選挙 を実施し、過半数を超える労働者の賛成を得て初めて組合が結成される仕組みである。このような背景から、米国では団体交渉権が認められていない職場が非常 に多い。しかし、「従業員自由選択法」はこの手続きを簡素化し、過半数を超える労働者の署名を集めれば組合を結成できるとしており、米国の労働組合は、起 死回生に向けて、一丸となって取り組んでいる。
法案審議が大詰めを迎える7月上旬に向けて、UNIテレコム部会は、「米国の労働運動はグローバルな課題と直結する問題であり、全体で後押しするべき」と の認識に立ち、加盟組織が自国の大使館に法案通過を要請することを確認するとともに、「従業員自由選択法案成立を求める決議」を満場一致で採択した。
長崎大会準備状況報告とピースツリー贈呈
加藤委員長は、2010年の長崎大会準備状況を報告した。日本のUNI加盟組織が各チームに分かれて鋭意進めている準備状況を紹介し、大会の魅力を高め た。また、長崎が平和都市である事とあわせて、「2010年のNPT(核不拡散条約)再検討会議に向けた署名活動をUNIのイニシアチブでも実施してほし い」と要請した。
さらに、ピース・ツリーをUNI本部に贈呈した。このピース・ツリーは、NTT労組が核の悲惨さを後世に伝え、平和の大切さを子供達に学ばせるために毎年 開催している「広島ぴーす号」というイベントで作り上げたもの。今春に開催された「広島ぴーす号」で、子供たちの平和メッセージが書き込まれた短冊で彩ら れたピース・ツリーに、UNIが参加することで、平和の志を高めていこうという意図で実施した。テレコム部会委員会参加者は、平和の大切さを短冊にこめ、 ピース・ツリーに飾りつけた。
まとめ
委員会は「戦略目標と行動計画」を策定した。とりわけ、(1)グローバル協定の締結のための交渉と実効性強化、(2)多国籍通信企業の組織化、(3)規 制問題への取り組み等を主要課題ととらえ、UNIと加盟組織のコミュニケーションを向上・連携しながら、全力を挙げて取り組んでいくことを意識統一した。
次回委員会は、2010年5月にニヨンのUNI本部で開催される。ラーセン議長は、採択された行動計画がきちんと遂行されるよう、各国へ協力を呼びかけ た。中でも、いま、UNI全体として組織化ターゲットにしている「中国」と「インド」を抱えるAproへの期待は熱い。7月末にはインドネシアでUNI- Aproテレコム部会大会、また、2010年には長崎で第3回UNI世界大会が開催される。日本の加盟組織の果たす役割は大きい。
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