テーマ2:各国で進む働き方改革と労働組合の対応-長時間労働、少子高齢社会、労働力不足等、東アジア共通の課題解決に向けた取組み
2-1)長時間労働の是正に向けた取組み
●日本(中島遥香 損保労連事務局次長):同労組の中期重点取組み課題において、多様な働き方の実現が掲げ、その一つに「長時間労働につながる商慣習の見直し」がある。時間外電話や至急の対応依頼などの行動を見直し、相手の働き方への配慮が重要である。連合と連携したシンポジウム開催や他産別との意見交換、労使協議等を行い、組合員の行動変革を促している。
●韓国(キム・ミュンソ KFIU副委員長):労働時間短縮に向けた同労組の取組みについて概説した。2002年に金融労使交渉の成果として同国で初の週5日制が導入され、他産業に対しても起爆剤となった。他に昼食休憩の一斉付与、パンデミック時の営業時間短縮などを要求してきた。現在は週休3日制を目指している。
●台湾(ナガオ・クナウ TPTSEU委員長):台湾の公共テレビとその組合員構成、同労組による長時間労働是正と勤務形態の多様化に向けた取組みについて、概説した。組合として次の勤務までの休息時間の確保等に取組んでいる。高齢化が進む中、交渉によって年5日の有給の介護休暇を獲得した。また「報道者」について、残業削減に向けて、超過勤務指示が直前に行われた場合には代休時間を増やすことを協約で定めた。
●モンゴル(バトチメグ・ナサンバータル 新国際空港労組):政労使で公正される国家労働安全衛生委員会があり、2023年7月に労働条件の基準が改定、これにより労働安全衛生管理に重点がおかれることになった。最近はメンタルヘルス課題にも注力している。組合として、公務員の給与水準の統一、勤務歴に応じた手当、地方勤務手当の支払い、インフレに見合わない賃金水準の改善と求めている。
2-2)女性が働きやすい職場作り
●日本(阪本裕実子 生保労連中央副執行委員長):同労組では「誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現」に向けて、ジェンダー平等に向けたポジティブ・アクションの推進、両立支援制度の拡充・活用推進を柱に、働き方を柔軟に選択できる制度の整備に取組んでいる。ジェンダー平等に関する意見交換会、管理職フォーラム等を開催し、今後さらに女性が活躍できる環境を整備していく。
●韓国(バン・キウォン KHMU教育委員会議長):約9万人の組合員のうち、多くが女性看護師である。過重労働ゆえに高離職率で、看護師有資格者で実際の稼働率は約5割である。組合は、長時間労働の是正、交代勤務の改善、ワークライフバランス向上について、病院や政府と交渉・闘争し、成果を勝ち取ってきた。
●台湾(リュウ・チュンハン CPWU企画部長):台湾における女性の安全衛生に関する法的保護、中華郵政による女性が働きやすい職場環境促進に向けた措置、(各種休暇や補助金、育児支援など)ワークライフバランスの取組みなどを紹介した。
2-3)多様な働き方(リモートワーク、フレックス勤務、ワークライフバランス、つながらない権利等)
●日本(水野和人 情報労連書記長): 2020年よりテレワークが急速に拡大、ICT産業で特に顕著であるが、東京と地方、業種間や事業所規模により開きがある。情報労連では加盟組織では7割以上がテレワークを実施、勤務時間管理や業務に必要な現物や手当ての支援、柔軟な働き方等について取組んできた。在宅勤務によるメンタルヘルス維持、つながらない権利が課題であり、労働条件と職場環境の改善に引き続き取組む。
●日本(井上克彦 UAゼンセン常任中央執行委員/イオンフィナンシャルサービスユニオン中央執行委員長):男性の育児休業取得率は2020年以降100%であり、取得日数も増加している。全国規模でのサテライトオフィスの活用や、誰でも時短制度の導入など、多様な働き方の促進に取組んでいる。
テーマ3:賃金・労働条件交渉の成果と今後の課題-物価高騰に対応した労働者への公正な分配・労働条件の向上は実現したか?
●韓国(キム・オクラン FKMTU政治部長):全国医療産業労連は大学病院と交渉、週休3日のパイロット事業の期間と部署を拡大した。また仁荷大学病院労組は2023年に医療労組として初めて中央労働委員会の調停制度を活用、賃金引上げについて早期に協約を締結しただけでなく、適正な人材配備による業務強度の改善、及び病院サービスの質の向上等、労働条件と密接な関連がある部分に対する合意を導出できた。
●日本(徳田和宏 自動車総連国際局部長):2023年の春闘は、全体的または中小組合についてもほぼ30年ぶりとなる水準の賃上げが実現した。2023年度は自動車販売部門においても物価上昇、人手不足を背景に、高い賃上げを獲得、自動車総連全体の底上げ・底支えに確実につながった。整備士を含むサービス職についても、資格手当や役職手当の新設、手当額の引上げを獲得した組合もある。
●日本(中田綾子 UAゼンセン流通部門執行委員):物価上昇やマイナスの実質賃金などを背景に2023年には全加盟組織より署名を集め、UAゼンセンとして賃上げ促進を政府に要請した。結果、政府や経営者団体の間で賃上げの必要性について認識が広がって賃上げの機運も大きく高まり、高い賃金妥結水準となった。短時間組合員の賃金引上げも8年連続で正社員の引上げを上回り、雇用形態間格差是正につながっている。また、労働時間の改善や、カスタマーハラスメント対策などについても多くの加盟組合で交渉が行われた。
●台湾(スー・ホンティン CTWU台北支部長):中華電信および組合、台湾の経済状況、CTWUの方針や戦略枠組みについて概説した。実際の成果として、会社収益に関わらず賃上げを確保すること、育児対策と補助の拡充、永年勤続者の賞与改善などがある。また労働権益の向上にむけた取組みとして、労使協議や政府陳情、労働者教育という3つのチャネルを説明した。
●モンゴル(バトチメグ・ナサンバータル 新国際空港労組):組合の意見も反映した上で2021年に改定された同国の労働法では、雇用契約、労働時間、賃金・手当、柔軟な労働条件などの点において改善が見られた。リモートワークやパートタイムの環境整備を団協協約で決められるようになり、超過勤務や深夜勤務の手当、同一労働同一賃金も明記された。また一度のシフトにおける勤務上限は12時間となり、健康面で大きな成果である。また、男性の育休や障がい者の雇用割合についても規定された。
■閉会式
砂川翔UNI Apro青年委員(JP労組)より、今回のフォーラムを総括し「今後もUNI、UNI Aproと連携し、東アジアの加盟組織間の情報交換を継続しながら、政労使の社会対話を促進し、労働者の声を政府および使用者に届けていく」ことを確認する共同声明が読み上げられ、採択された。また、次回フォーラムホスト国である韓国のキム・ドンホKPWU委員長が、次回は2025年にキョンジュで開催することを発表した。最後に、安藤京一UNI-LCJ副議長が、二日間で学んだことを生かし、UNIファミリーとして「共にこの地域の社会・経済の発展に貢献していこう」と挨拶し、閉会した。
なお、各セッションでは以下の方々が司会を務めた。
• 開会/基調講演:(日本)山下茂美 日放労中央執行委員
• サブテーマ1 :(日本)加藤友樹 全印刷組織部長
• サブテーマ2 :(韓国)ヨン・ユンギュ KHMUプサン支部長
• サブテーマ3 :(台湾)ジュリア・ロー CPWU書記長
• 閉会 :(日本)大澤佳之 全労金ろうきんセントラル労組 執行委員