ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)-個人が就労中か否かに関わらず、世帯所得を保障するという考え方が、最近チューリヒで開催された「仕事の未来」会議の中心的テーマであった。
UBIは何十年も経済界で議論されてきた考え方だが、人間の仕事がますます機械化され、オックスフォード大学等が10~20年以内に雇用の半数が機械化によって失われると予測する時代にあって、再び注目されている。
UBIは様々な政治分野で、熱い議論の的となっている。中でもスイスはUBIの導入を議論しており、今年国民投票を実施する予定だ。オランダでは既に実験的に実施されており、フィンランドでも間もなく開始される。
技術革新と、特に今後数年で急増が予測されている「プラットフォーム・エコノミー」や「シェアリング・エコノミー」における新しい雇用形態の圧力にさらされて、UBIを福祉制度の万能薬と見る向きもある。労働者が短期の不安定な仕事をいくつも抱えているような経済に、いかに福祉制度を適合させるのかという問題は、雇用形態に関わらず毎月の基本所得を保障する議論の中心となっている。
「プラットフォームになり得るものは何でもプラットフォームになる」と、世界最大のカーシェアリング会社ZipCar共同創立者のロビン・チェイス氏は述べる。「父は生涯1つの仕事に従事した。私は一生のうちで6つの仕事をするだろう。娘は同時に6つの仕事をこなすかもしれない。」
チェイス氏は、全ての人がこの状況を好むわけではないことを認識しつつ、プラットフォーム・エコノミーへの移行において、多くの労働者が職を失いそうな状況を受け、UBIの考え方を支持している。
他にも、ギリシャの元財務大臣であり著名なエコノミストであるヤニス・バルファキス氏らは、経済格差が歴史的レベルに達した今日の状況は、UBIを導入するに十分な根拠であると述べる。「UBIは必要だ。」「好むか好まざるかの問題ではない。ベーシックインカムは、富の創出に対して集団で責任を負う国民への配当金だからだ。」
米国のロバート・ライシュ元労働長官は、労働力参加率がここ数年で最低水準を記録し、技術のせいでますます多くの人が低賃金労働に追いやられている事実を指摘する。「格差が生じ、総需要が落ち、不安定になる」とライシュ氏は述べる。「UBIは真剣に考える価値がある。」
UBIで想定される恩恵について、これまでのところ労働組合の中では意見が分かれている。アンドリュー・スターンSEIU前会長は、避けられないほど差し迫った失業の高まりに備えられない危険性を警告している。「10~20年以内に津波のような破壊的状況が押し寄せてきた時、従来の小さな防波堤では持ちこたえられないだろう。」「UBIはこの問題へのまったく異なるアプローチだ。これまで聞いた政策で、UBIがなし得ることを実現できる政策は1つもない。失業保険は必要なくなるだろう。これは選択と自由と機会の問題だ。」
バルファキス氏も、「機械がチューリングテスト*に合格したら、人類史上初めて、雇用破壊が雇用創出を上回る瞬間を目にするだろう」と言っている。(*英国の数学者チューリングが考案した、コンピュータが考えることができるか判定するテスト。)「社会的セーフティネットは人々を支えるのはよいが、貧困から抜け出るには難しい」とつけ加えた。「ベーシックインカムを土台とし、そこから空高く伸びていくと考えればよい。」
スイス最大の労組UNIaのバニア・アレバ委員長は、ベーシックインカムについて懐疑的だ。「議論する価値のあるビジョンだ」としながらも、「しかし、スイスにはきちんと機能している社会保障制度があり、UBIによってこれが脅かされている」と述べる。
英国の労組ユナイト・ザ・ユニオンのアンドリュー・ブレイディ氏は、UBIの考え方に共感しつつも、UBIを特効薬と見るべきではなく、我々を取り巻くニューエコノミーに対する解決策の1つと考えるべきだと述べている。「UBIの計画と運営に労働組合を関与させること、UBIを訓練や再訓練と関連付けること、そしてより高い最低賃金および強力な労働法制と併せてUBIを構築していくことによって、より良い基準を確保し、経済的混乱を緩和することができるだろう」とブレイディ氏は述べた。
スイスは、2016年6月にUBIの国民投票を行う。
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