
バングラデシュのタズリーン工場火災によって100人以上の縫製労働者が死亡し、200人以上が重症を負ってから10年が経過した。 多国籍企業の利益の源泉であるグローバルな事業展開とバリューチェーンは、あまりにも長い間、野放しの状態であった。企業は、世界中の労働者の状況に対する説明責任を果たすことなく、複雑で不明瞭なバリューチェーン、そして軟弱で一方的な企業の社会的責任(CSR)の取組みの陰に隠れてしまうことができたのである。
世界で最も信頼のおける人権団体の1つであるヒューマン・ライツ・ウォッチによる新たな報告書が暴くのは、企業の社会的監査ツールの多くがいかに空虚なものであるか、ということだ。 報告書『目標なき監査ツール:社会的監査がグローバル・サプライチェーンにおける労働者の人権侵害を解決できない理由』は、「社会的監査や認証プロセスには、利害対立や抜け穴などの問題が山積しており、人権や環境基準が尊重されるようにするためのツールとして、不適切である」と指摘している。
アルケ・べシガーUNI副書記長は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、我々が何年も前から言ってきたこと、つまり、社会的監査業界は、多国籍バリューチェーンにおける人権侵害のリスクについて正しい洞察を得る上で、当てにならないものだということを強調している。 今や数百万ドル規模の産業であるにもかかわらず、悲しいことに、人権侵害が発見されても、それが軽減あるいは是正されることは、ほとんどない。デュー・ディリジェンスの法律が策定されている場合には、我々は各国政府に対し、企業が単に責任を外部委託するのではなく、デュー・ディリジェンスの全段階で権利の主体、特に労働者とその労働組合に関与するよう、要請していく」と述べた。
幸いにも、デュー・ディリジェンスに関する企業の動きには、変化が出始めている。ドイツなど数か国で人権デュー・ディリジェンスの義務化が法制度として導入され始め、ようやく多国籍企業は、そのバリューチェーン内で生じた権利侵害に対し、責任を持つようになり得たのだ。
しかし、こうした重要な法律以外にも、バングラデシュのタズリーンとラナプラザの災害後、衣料品労働者の安全衛生の改善に大きく貢献した『繊維・衣料品産業の安全衛生に関する国際アコード』の成果からも、学ぶことができる。アコードを創設した署名組織としてUNIは、間近に迫ったパキスタンへの拡大も同様に効果的なものにすべく、取組んでいく。
UNIが重視している点は、デュー・ディリジェンスが労働者のために機能し、企業が良い評判を得るための皮肉なPRにならないようにすることだ。 UNIの経験が示すのは、中身のない空虚なCSRから、人権に関する真摯な説明責任へと移行するための核となるのは、デュー・ディリジェンスの各段階における労働組合の全面的な関与である。
これにより、国内および国際レベルの労働組合を含め、利害関係者を代表する人々の席が設けられ、プロセス全体を通じて労働者が尊重されるようになる。これこそが、デュー・ディリジェンスに正当性と透明性を与え、バリューチェーン内の労働者に、問題が起きても自身の懸念は対処されるのだという確信を与えることになる。
しかし、UNIや加盟組織が関わっている企業は、その責任を社会的監査企業に委託していることがあまりにも多い。こうした企業は、非常に多くの場合、労働者が日常的に直面している現実とはほぼ無縁の認証や賞の紙吹雪をばらまいているように見受けられる。 労働組合の権利を侵害してきた過去があり、特にリスクの高い国で事業を展開している企業が、なぜか社会的責任のある使用者として、認証や賞を獲得しているのである。
べシガーUNI副書記長は、「我々は今、過去の過ちから立ち直り、人権侵害から利益を得ることはもはや許されないという岐路に立っている。 UNIは、加盟組織や先進的な企業とともに、国際アコードのパキスタンへの拡大を成功させ、人権デュー・ディリジェンスが労働者の声を中心に据えたものとなるよう、引続き取組んでいく」と締めくくった。