結成150周年を迎えるノルウェーの印刷・グラフィック部門の労働組合は、労働者の力を高め続けるため、未来に目を向けている。ノルウェーで最も歴史あるオスロ印刷労組(Fellesforbundet傘下)における、労働条件の改善に向けた野心的な動きを見ていきたい。
動き出した部門
クリスチャン・ミュレン・セザー・オスロ印刷労組委員長は、「伝統的な印刷部門の労使関係は、確立されたものであり、労働者は組合を通じて良質な労働条件を獲得してきた。だが、時代の変化にあわせて、組合も変わらなければならない。印刷部門の進化に伴い、大規模な印刷機ではなく、オフィスでコンピュータを使って働く印刷労働者が生まれた。従来の印刷業は今も中核的なサービスであるが、今日の印刷産業には、こうした新しい労働者の働くデザイン事務所も含まれる。我々は組合の豊富な経験を生かし、こうした進化の途上にある部門において、良好な労働条件を確立しようとしている」と語る。
デザイン事務所や広告代理店で働く人々の仕事は人々の目に触れやすいが、労働条件はそうではない。この成長中のグラフィックデザイン部門の労働者は、従来の印刷部門の労働者と同じレベルでは組織化されておらず、彼らの労働条件は、決して恵まれているとは言い難い。
未払いの残業代や、管理しきれない仕事量、労働時間が予測できない等の問題が頻繁に生じている。こうした状況に対応すべく、労働者は組合を通じて、こうした部門における組織化支援を強化していくことを決めた。
公共調達を活用し、最初の突破口を開く
ノルウェーでは、多くの労働者が団体交渉によって保護されているが、デザイン事務所や広告代理店で働く多くの人々は、これにあてはまらない。この状況を変えるには、このような代理店で最初の団体協約を締結し、組合にできることを示す必要があった。
こうした中、オスロを拠点にするデザイン会社BØKの労働者は、積極的なアプローチを取った。職場の一体感を醸成するため、組合の職場委員が同僚同士の交流を促した。従業員の中で共通の懸念が確認され、その結果、新たな組合員の加入にも繋がった。
最初の団体協約を締結するため、組合はノルウェーの公共調達法を利用する戦略を立てた。この法律は、公共機関が公共契約を発注する際に、労働者と団体協約を結んでいる企業を優先させることを義務づけている。ほとんどのグラフィックデザイン会社が対象外であるため、BØKは、この部門の重要な顧客基盤である公共機関のプロジェクトにアクセスする上で、大きな足掛かりを獲得することになる。
組合は、団体協約を締結することで公共契約の獲得につながるという点を強調し、経営陣に働きかけを行った。会社は公共契約を取り付けられるだけでなく、団体協約は適正な労働条件の証明にもなるので、他の社会的責任ある顧客向けのプロジェクトに応募する際にも活用できる。
会社トップと接触する機会において、こうした主張は効果的であり、また肯定的な反応を得ることができた。組織化の取組みを開始して10か月後、BØKの労働者は、2022年2月に使用者と団体協約を締結した。
部門全体の戦略
カーステン・オストビー・ホーコンセン・オスロ印刷労組副委員長は、「BØKでの最初の躍進が方向性を打ち出したが、ここで終わりではない。部門全体でディーセント・ワークを確立することが我々の狙いであり、そのためには、団体交渉を例外的なものではなく、原則にしていきたい」と意欲を語った。
劣悪な労働条件は、印刷デザイン業界でますます一般的になっている。 そこで組合の代表者らは、この部門で働く自身の経験をもとに、労働やデザインの専門サイトに意見を掲載したのである。 こうした的を絞ったメディアへの働きかけが功を奏し、労働者は組織化を自身の解決策とみなすようになった。
デザイン事務所は中小企業の数が多く、大企業の数は限られている。BØKの経験は前例を作るものとなったが、企業ごとの組織化は、効果が落ちる可能性があり、また膨大なリソースも必要となる。団体協約を早期に締結することの利点を享受できるうちに、一部の大企業に働きかけていくことが、流れを変える鍵になるだろう。
組合のもう一つの戦略は、学生に変化の種を蒔くことだ。組合は、大学や職業訓練校、中等教育機関を回り、組織化が職場の問題に取組むための解決策であることを教えている。学生たちに、自身の将来の労働条件を改善するためのツールを提供しているのである。
オリバー・レティクUNI欧州地域書記長は、「150年の歴史を持ちながら、オスロ印刷労組は今なお健在であり、戦略的思考は組合運動の宝だ。我々は共に、蓄積された財産を活用し、現在も、そして次の150年も、労働者の力を構築していこう」と述べた。