クリスティ・ホフマンUNI書記長とシャラン・バロウITUC書記長は共同で、2020年7月23日付『Social Europe』に次の意見を掲載した。原文はこちらから
パンデミック中にリモートワークが急増した。監視された中で孤立状態とならぬよう、個人の自主性を確保する団体協約が必要である。
数年後、我々は2020年を転換期として振り返ることだろう。大勢の労働者が職場から離れ、在宅や自宅近くで働く新たなモデルへ向けて生活を立て直し始めた、極めて重要な時期だった、と。世界的な感染拡大によって、突然、破壊的な働き方の変更を余儀なくされた。想像以上に大規模に、業務を継続することができるよう迅速に調整されたテクノロジーによって、そうした変更は後押しされてきた。多くの人々が、過去の職場には戻らないだろうと予想している。
そうしたテレワークはこの数十年で徐々に増加してきた。典型的なテレワークは、測定しやすく高度に自主的な仕事に関連し、多くの場合、ハイレベルで独立した評価が行われてきた。このような働き方が最も普及しているのは北欧や米国の、通勤時間が長く事務所賃料が高額な地域であり、労使共にこのモデルを採用する動機付けがある。
だがパンデミックによって、非熟練の自主性の低い仕事も含め、より幅広い仕事が、職場を離れても効果的に遂行できることがわかった。事実、ロックダウン期間中にOECD加盟国の全労働者の推定40%が在宅で仕事を継続できたという。
恒久的にリモート
全従業員が職場で仕事を再開したという企業はまだほとんど無く、そうする予定はないと宣言している経営者の数は増大している。最高財務責任者を対象にしたある調査では、企業の74%が一定割合の従業員を恒久的にリモートワークにする予定だと答えている。
米国のネーションワイド・インシュランスは、大規模事務所のうち5つを閉鎖する予定で、従業員に在宅勤務を要請している。世界最大手のコールセンター企業であるテレパフォーマンスは、約15万人の従業員が職場に戻らないだろうと推測している。「生産性が低下しても、事務所維持経費をなくせるので、十分におつりがくる」と、言う経営者もいる。
現下のテクノロジーは職場から脱出する利点を生かすには十分なほど発達している。ZoomやTeamsといったツールを通じて高度に進化したリモートでの連携が可能であり、マネジメントのサポートすら提供している。また、仕事を細分化することで、測定しやすく、どこからでも扱えるいくつかのタスクに分割することができる。そのため、リモートワークに適した職域が広がっている。
例えば保険産業では、多くの仕事がルーチン化されており、人工知能が保険請求の審査業務を補完している。コールセンター業務は、以前は大規模なセンターで管理者が動き回る中、行われてきたが、今や在宅で仕事ができる。そして、監視カメラやAIによって、受けた通話全ての会話内容、声のトーン、結果の一部始終がモニタリングされている。
ワークライフバランス
労働者にとってこれは何を意味するのか? 在宅勤務は望ましいはずであり、実際、特に通勤時間が長い上、家庭責任を持つ多くの人々とっては、本当に助かるはずだ。合理的な1日の勤務の終わりに「つながらない権利」が伴っているなら、ワークライフバランスを回復するのにいくらか役立つはずである。
しかし現実は、乱用されやすい状況にある。尊厳を守り、雇用関係を維持し、結社の自由が担保されるような措置が取られて、初めて「ウィンウィン(双方に利をもたらす)」となるのだ。
かなり長い間、組合は、リモートワークの条件について経営者と交渉してきた。銀行・保険産業では、1999年からリモートワーク規定が整っている。こうした団体協約によって、リモートワークの選択は任意であること、事務所勤務に「戻る」権利があること、昇進の道と均等な機会が守られること等が確保されてきた。組合は、在宅勤務時のつながらない権利の促進についても道を開いてきた。
遠隔勤務者を増やすという経営者側の需要が大きくなるにつれ、こうした協約の真価が問われ、交渉プロセスを促進する規制が必要となるだろう。
職場代表がいない
しかし残念なことに、在宅勤務を続ける可能性のある労働者の大多数に、職場代表がいない。欧州以外の多くの国の政府は、この新しい働き方の現実を規制していない。米国の民間部門では、ホワイトカラー労働者を対象とする協約が事実上存在しない。これは極端な例だが、民間サービス部門のホワイトカラー労働者には、世界の他のグループのような組合代表がいないのだ。
また、組合は、リモートワークが、こうした労働者の非正規化や「ウーバー化」につながらないよう警戒しなければならない。仕事が、「プロジェクト単位で支払われる」独立請負人契約等の営利契約や、より人件費の安いところへ外注しやすい昔ながらの出来高払いの仕事へと後退するにつれ、「リモート」ワークと「プラットフォーム」ワークの境界線が曖昧になることは想像に難くない。
そして働く場所の変化が、労働者から企業のポケットへと流れる富の移動を意味してはならない。在宅を続ける従業員の条件を悪化させてはならない。加えて、労働者が自宅の電気ガス水道、インターネットを使うことに対して、費用を補償されるべきだ。そして当然、使用者に必要機器と安全な職場を提供する責任があることは変わらない。パンデミック中に「在宅勤務」へと転換されたコールセンター労働者の中には、通勤費を節約できているという主張から、企業のWi-Fiパッケージを購入するよう要求された者もいる。
使用者は常に従業員の生産性を測ってきたが、AIによる監視は度を超す可能性があり、組合代表と交渉が行われない限り、許すべきでない。データ及びプライバシーに関する方針は、一方的に押し付けられてはならない。
労働者が地域あるいは国境を超えて分散している現状では、結社の自由を実現するのは、ほぼ不可能である。この基本的な権利を、何百万もの労働者にとって過ぎし日のスローガンではなく、現実のものにしようとするならば、結社の自由のルールと定義を見直し、例えばデジタルな会議スペース等を通じ、組合が労働者とコミュニケーションを図る有意義な機会を可能にしなければならない。
最も重い負荷
女性は、家庭の世話をする、より重い責任を担っているため、在宅勤務を選択する可能性が最も高い。女性が「忘れられ」たり孤立したりして、キャリアの機会やメンタリング(職場において熟練者が未熟者に助言や手助けをしながら人材を育成すること)から断たれないよう、積極的な措置を取る必要がある。多くの組織において、恒久的なリモートワーク状態が成功への切符にはなりそうにない。
リモートワークが生産性に及ぼす影響は議論すべきテーマであり、特に執筆プロジェクト等の、集中し個別化した作業の間は、在宅の方が生産性は高いと考える人が多い。米国のある調査では、専門職は週15時間までは在宅勤務の方が生産的だということがわかった。もちろん部門によって様々ではあるが、フルタイムの在宅勤務の長期的な影響について、じきにもっとわかるだろう。
しかし、特にフルタイムの在宅勤務には、創造性、チームや企業風土、連携という点でマイナスの影響がありそうだ。Facebookが何年か前に初期の「在宅勤務」の実験をやめたのは、それが理由だった。(その後、同社は成績優秀者のために新たなリモート方針を発表した。)また、フルタイムのリモートワークに伴い、同僚と疎遠になることも、過小評価してはならない。多くの人々にとってメンタルヘルス上の問題が生じるからである。コーヒーブレイク中のおしゃべりに代わる、どんな個人的な交流があるだろう?
また、この変革が我々のコミュニティに対して及ぼす劇的な影響を、誇張し過ぎることはない。ホワイトカラー労働者は毎日、公共交通機関を使い、街に流れ込み、ランチを外食し、ドライクリーニング店やその他のサービスを利用する。このような労働者が街に来なくなれば、どうなるか? 気候へのプラスの影響を称賛できる一方で、こうした変革へと舵取りするには、能動的な計画が必要である。
我々は真の転換期にさしかかっている。多くのプラス面があるものの、危険信号も点滅している。労働者代表は、こうした移行の条件を交渉するために、使用者や政府、国際機関との交渉テーブルにつかなければならない。過去の職場が取り残されても、労働者の利益がそうならないようにするには、それしか方法はない。