2019年5月28~29日、インド・ムンバイで、インドのセキュリティ印刷労組及び新聞労連の強化を目的とするセミナーが開催された。
2016年11月、2017年11月に続き、3回目となるセキュリティ印刷労組を対象としたセミナーは、今回初めて、新聞労連と共同で開催された。
財務省管轄下にあるセキュリティ印刷公社SPMCILは、造幣4工場、紙幣製造2工場、セキュリティ印刷2工場、製紙1工場、合わせて9工場に11,000人の労働者を雇用している。組合は工場毎に結成されており、最大の労組ISPMS(ナシック工場)が全印刷の強い働きかけの末に2016年にUNI加盟を果たした。他工場の労組のネットワーク結成を図り、インド・セキュリティ印刷労連としての加盟に向け、他工場の労組役員に、UNI加盟による情報交換・経験交流の意義を理解してもらうセミナーを継続している。
新聞労連と共同で開催することにより、インドの労働組合が直面する課題を異なる視点から俯瞰すると共に、欧州、日本、オーストラリア等の経験を参考に、解決策を検討した。
講師として、ロレイン・キャシンUNI Apro印刷・パッケージング部会議長(オーストラリア製造労組・印刷部門書記長)、安部正全印刷書記長が出席した。
キャシン議長は、『UNI Apro印刷・パッケージング部会加盟組織にとっての課題と機会』と題し、オーストラリアの現状と組合の対応を説明した。新聞の電子版へのシフトと、グラフィックアート事業のオフショア(海外への外注)が進み、オーストラリア国内の印刷工場が閉鎖され、製造労組印刷部会の組合員数は落ち込んでいる。他方、外注先のインドでは組織化の機会が生まれたと言える。両国は連携して外注先の労働者の組織化を推進するべきだと訴えた。オンライン決済が奨励されていることに対しては、オーストラリア国内でもデジタル格差があり、全ての人が等しくインターネットにアクセスできるわけではないこと、サイバー犯罪が多く報告されていること等から、現金の安全性を強調した。
安部全印刷書記長は、キャッシュレス化の世界的な傾向、日本の現状と将来、雇用への影響について、詳細に説明した。組合が独自にAI、IoT等について調査・分析を行い、印刷局も新規事業を検討する等、労使双方が、新たな可能性を前向きに模索することが重要だと述べた。
これらの講演を受け、参加者からは様々な質問や提案が出された。
その後、セキュリティ印刷労組と新聞労連はグループに分かれ、それぞれの課題と組合としての解決策について議論・発表し、講師からアドバイスを受けた。
セキュリティ印刷労組は、今後、政府が推進するキャッシュレス化の影響で紙幣・硬貨の製造が減ること、労働者が不要になることを懸念した。そのため、持っているスキルを活かした他の事業の可能性を政府に提案するため、UNIを通じて、他国の事例をもっと研究したいと述べた。
新聞労連は、アウトソース、派遣労働、契約労働の拡大により、正社員数と組合員数は減少し、組合の交渉力が落ちていることを課題としてあげた。非正規労働者は採用時に、経営側から組合に入らないよう約束させられる。正社員ですら、解雇や左遷を恐れて組合加入を恐れている。そこで、組合として、雇用形態に関わらず組合加入の権利を認めるよう、団体協約・労働契約に明記させるよう交渉したいと述べた。
安部書記長は、2日間の議論を総括し、「課題を整理し、労働者が結束して取組むこと」をアドバイスした。
セミナーの最後に、参加者代表から、講師陣とUNIに感謝の言葉が述べられた。とりわけ、2015年のナシック工場訪問から、3度のセミナーに講師を派遣してくださった全印刷に、ジャグディシュ書記長から、感謝と支援継続の強い要請があった。