2016年7月11日、UNI-LCJ金融部会は、EUミッションの一員として来日したオリバー・レティクUNI欧州地域書記長を招き、「欧州情勢と規制が金融市場に及ぼすインパクト」のテーマで講演会を行った。レティクUNI欧州地域書記長は、地域書記長就任前、UNI世界金融部会担当局長を務めていた。今回、欧州金融産業の抱える課題として、金融規制やマイナス金利政策、デジタル化、英国のEU離脱等が金融産業及び雇用に及ぼす影響と労働組合の対応について、最新情報を共有した。
レティク地域書記長は、2008年に始まった金融危機が及ぼした銀行業への影響は未だ続いていると述べた。テロリズム、押し寄せる難民問題に加え、数週間前に英国民が選択したEU離脱等、欧州全体に不安が広がっている。不安定な状態が続くと、銀行や生命保険会社は投資を控える。EU離脱と金融制度改革の実施までには時間がかかるが、中長期の不透明さが金融業界、特に大口投資家や年金基金、生命保険業に与える影響は少なくない、と見ている。また、金融産業の経営者も労働問題や社会問題に関する労使対話を抵抗するようになっており懸念される。レティク地域書記長は、マイナス金利については、長くデフレ状態にあった日本の経験に関心を示した。
欧州の労働組合は、あらゆる産業においてデジタル化による雇用喪失に懸念を抱いている。銀行に行かずオンラインで取引できるようになり、支店閉鎖により10~20%の雇用が喪失するとの推測がある。
また、FinTech(金融+テクノロジー)にも注目が高まっている。欧州委員会はFinTechに関するタスクフォースを新設し、FinTechを奨励しているが、金を借りたい人と貸す人をつなぐFinTechのようないわゆるプラットフォーム型ビジネスは銀行ではない上、国境を越えた取引も行われるため、従来の国内の銀行の規制や法律の対象外となる。消費者保護やサイバー犯罪の面でも、対応が追いついていない。労働組合としては、銀行とFinTech会社は平等な条件で競争すべきであるとの立場であり、「組合は、この動きに反対するか、(仲間に取り込んで)利用するしかない」と述べた。デンマークの金融サービス労組は、FinTechと労働組合の連携を模索する研究を始めている。
UNI金融部会が2013年に行った雇用喪失調査では、バーゼル規制(資本要求規制)が雇用削減の口実に使われていること、投資部門を残し、組合員の多いリテール部門を閉鎖する傾向が見られた。UNIは、多様な金融機関が共存し、競争を保護するためにバランスが重要だと主張している。
また欧州では、労組の組織率が低く、組合の力が弱い中欧・東欧に西欧から業務がアウトソーシングされている。UNI欧州地域は、多国籍企業毎に労働組合同盟を結成し、組合のネットワーク作りと連携強化を通じて、多国籍企業との交渉力強化に努めている。
レティク地域書記長は、日本とEUの情報交換・経験交流は今後ますます重要になると述べ、金融加盟組合どうしの交流を奨励した。