概要
2015年1月26日、バングラデシュ・ダッカでICTS労組役員を対象にしたワークショップが開催された。昨年末から政治不安が高まり、ダッカ市内でも野党連合が率いる政治デモが連日行われる中での開催となった。デモに伴う交通規制等の悪条件にも関わらず、6組合から32人が集まり熱心に議論に参加した。UNI Aproからは野田ICTS部会議長/情報労連委員長、ラジェンドラ・アチャリャ労働組合強化部長、クン・ワルダナICTS部長、モハメド・シャフィーMLC議長、情報労連・木村国際担当が参加した。
また、モハメド・モジブル・ハクチュヌイ労働雇用大臣、バングラデシュの既存通信事業者BTCL副総裁とそれぞれ会談し、健全な労使関係構築の重要性について認識向上を求めた。
ワークショップ
野田議長が「健全な労使関係の必要性」について報告し、NTTの労使関係を紹介した。その中で、労働協約の締結による健全な労使パートナーシップの重要性について述べ「労働組合と使用者が信頼関係を構築する事が双方にとって有益である」と強調した。UNI-MLCシャフィー議長は、マレーシアの携帯電話会社における組織化経験を紹介した。また、クンICTS部長とラジェンドラ労働組合強化部長がそれぞれUNI Aproの活動について説明した。
バングラデシュには6社の携帯電話会社があり、うち4社の労働組合がUNIバングラデシュICTS部会に加盟している。最大事業者グラミンフォンの労組は2013年に設立された新しい組合で従業員の過半数を組織しているが、政府からの承認を得ておらず、会社との対話の機会がない。グラミンフォンの親会社テレノールはUNIとグローバル協定を締結しており、UNIは本部レベルでの側面支援を検討している。また、グラミンフォン労組は組織化活動を強化し、従業員の結束を高めていくとしている。
ワークショップ参加組織は次のとおり。
- グラミンフォン(携帯、組合員数約1,500人、政府未登録)
- テレトーク(携帯、組合員数約300人、政府登録)
- ロビ・アクシアタ(携帯、組合未設立)
- バングラリンク労組(携帯、組合未設立)
- アクセンチュア労組(IT、組合員数約300人、政府登録)
- BTSKU(固定、組合員数約5,000人、政府登録)
各種会議
1月26日、モハメド・モジブル・ハクチュヌイ労働雇用大臣を表敬訪問し、野田議長は「健全な労使関係の構築は国家経済の発展と企業の生産性向上には欠かせない、理解と支援をお願いしたい」と要請した。これに対してハクチュヌイ大臣は「ILOの原則に従って、労働者福祉の増進に努めていく」と述べた。またICTS産業は国家発展のために重要な産業であるとの認識を示し、政労使のセミナー等への実施協力についても言及した。
1月27日、既存通信事業者BTCL副総裁と会談した。バングラデシュの固定通信は市場開放されているが、BTCLは100%政府保有で、事実上、市場を独占しており、現アワミ政権がICT利活用促進のために進めている「デジタル・バングラデシュ」の下、光ファイバーの全国整備に取り組んでいる。副総裁は、BTCLが展開しているネットワーク整備の状況や従業員の技術訓練について説明した。代表団からは健全な労使関係の重要性について説明し、会談を終了した。
課題
2013年に改正された労働法では、企業利益の5%を従業員基金に充てる事となったが、きちんと順守されていない。また、労働組合結成時に全従業員の30%の署名を提出しなければいけないが、このリストが事前に会社側に漏れて解雇に至るなどの問題が発生している。また、労働組合の政府登録も手続きが難しく、認可プロセスが不透明である。そのため、国家としての法整備や手続き改善が期待されるところである。
ICTS部門においては、2014年にUNIバングラデシュICTS部会が設立された。使用者との対話チャネルの確立方法や交渉など、定期的に会合を持ち情報交換を行っているとのこと。UNI Apro ICTS部会がどのような有効な支援をしていくか、組織化の潮流づくりに貢献できるかは大きな課題である。
所感
バングラデシュは親日的な国民性である。これは、1972年にパキスタンから独立した際に国家として認めた最初の国のひとつが日本であること、また、経済援助が根幹にあると言われている。この日本への期待感は、各種訪問先においても強く感じられた。よって、日本の労働組合の経験に対する関心も高く、労働組合開発に対する日本労組の支援という点でも潜在性が高いと感じた。また、情報通信部門はバングラデシュにおいては比較的新しい産業と言われているが、国家発展や貧困撲滅のためには欠かせない産業であると考えられている。そのため「健全な事業発展のためには健全な労使関係が必要である」との認識をバングラデシュ政労使において高めていく事が必須である。今後、現地労組は組織化を着実に進め、UNI/UNI Aproは情報・技術支援や、必要に応じて政府や企業へ労使関係の重要性の浸透を図るなど、内外の並行的なアプローチが考えられる。