2012年8月7日、スリランカ・コロンボで、ワークライフマネジメントに関するシンポジウムが開かれた。
UNI-Apro専門職・監督職委員会委員に加え、海外参加者、スリランカの加盟組合及び専門家、南アジア・オルグ/教育担当訓練コース参加者等、8カ国32労組から100名を超える参加者が出席した。
午前中は「サービス産業の持続可能な成長のための、専門職・監督職におけるワークライフマネジメントと主要業績評価指標(KPI)達成の適正バランスについて」のテーマで情報共有を行なった。アジャンタ・ダルマシリ・スリジャヤワルダナプラ大学経営大学院経営コンサルタント(スリランカ)は基調講演で、ワークライフバランスの概念について批判的検討を試み、そこに内在する根本的な欠陥を明らかにしようとした。
続いて、福地UNI-AproP&M副議長が、NTTの研究者・技術者のワークライフバランスの取組みを紹介した。ICT分野の事業環境の変化や社会情勢に対応できる、働き甲斐をもちながら安心して働き続けられる制度が必要となり、研究開発課題の多様化により働き方も多様化している中で、定年(60歳)から年金受給(65歳)まで安心して働ける制度構築と、研究所における裁量労働制導入・改善及び在宅勤務の積極推進を図った。組合としても、裁量労働制の運用を検証し、研究所の施策をトライアルとして他の組合員にも展開し、ワークライフバランスを更に充実させようと取組んでいる。
クララトネ・ランカ国際経営顧問サービスCEO(スリランカ)は、サービス産業におけるワークライフバランスとKPIについて発表した。企業にとって株主や顧客を満足させるのも重要だが、従業員がいなければ企業は運営できないのであり、従業員の満足度を上げなければビジネスは成功しない。長時間労働は、健康を害し生活や精神面に悪影響を及ぼし、結果、仕事の能率も落ち、期待された成果があげられず、更なる長時間労働へと悪循環に陥る。従来のKPIは財政面だけを測る指標だったが、管理可能なものにだけ指標を設定すべきで、時間管理もきちんと行い、従業員の実績を評価し報奨を与えることが重要と提案した。
ウン・ペンホCIMB銀行労組書記長(マレーシア)は、「金融業における非現実的なKPI及び販売目標」と題し、窓口係・営業担当の抱える事例を訴えた。生産性は伸びたが報酬の配分は平等でなく、経営側は人件費もコストとみなし、職をも脅かすようなKPIを押し付けている。病欠、長期疾病や産休取得、異動等があれば、目標達成は更に難しくなるが見直しがされない。組合としては達成可能なKPIにしてほしいと願っている。
ノラ・カンDBS銀行労組委員長(シンガポール)は、「PMEの雇用保障」と題し、若年、熟年、復職希望の女性、フリーランスという4つのカテゴリー別に特徴的な懸念、外国人PMEに職を奪われるという懸念、現在の雇用法がPEMを対象としていないという問題点に鑑み、組合が取り上げるべき課題だと述べた。NTUCは研修、エンプロイヤビリティ強化、転職希望者に成長産業への雇用機会の拡大、雇用法見直し、啓発活動、三者仲裁に重点を置いて取組んでいる。PMEに対してウェブサイトやソーシャルメディア等を通じて、こうしたサービスの活用を奨励し、同時にPMEを労働運動に取り込んでいきたいと語った。
午後は監査法人アーンスト&ヤングのパートナー、アルジュナ・ヘラス氏が、「コーポレートガバナンス(CG)の評価:金融専門家及び年金基金運用受託機関の信託機能」というテーマで、CGの枠組みを概説、スリランカにおけるCGの実情と、取締役会の独立性確保や小規模株主の権利保護に向けた動き、更に従業員積立基金(EPF)の投資とCGについて説明した。
ウルフ・ベンソンUNI P&M議長(エンジニア労組委員長)は、スウェーデンの退職年齢の変化と年金制度の課題について報告した。公的年金が世界で初めて導入された1913年当時、受給年齢は67歳と設定され、1975年に65歳に引き下げられた。従来は確定給付だったが、1996年に確定拠出(給与の18.5%を各自拠出)に変更した。専門職は65歳で退職後もコンサルタントとして週1~2日のペースで数年働くケースが多い。受給額を維持するために退職年齢の引き上げが議論されている。長く働いてもらうには、良い職場と年長者を尊重する雰囲気が重要だと述べた。
ジョン・デペイバUNI-Apro P&M議長(NTUC名誉会長)は、シンガポールにおける中央積立基金(CPF)下の退職金給付について、冒頭「シンガポールには年金制度と最賃はない」と明言した上で、退職後の保障、子供の教育、医療・保険、住宅、財テクに包括的に使える、労使拠出による社会保障貯蓄制度の仕組みを説明した。現在65歳の退職年齢を67歳か70歳への引き上げを検討中とのこと。老後には早くから備えなければいけないと強調した。
關損保労連委員長(UNI-Apro金融部会議長)は、少子高齢化が加速化する日本の年金制度と課題について、AIJ投資顧問による年金消失問題にも触れながら報告した。その上で、再発防止には、投資・運用機関に対し、金融資本市場及び金融産業の活性化という観点もふまえ、バランスのとれた規制を行うこと、金融機関には適切な情報開示を義務付けること、年金基金は受託者としての責任を果たすこと、年金加入者(代表としての組合)はガバナンス機能を発揮して責任投資を確保すべく意見反映していくことが重要だ、とコメントした。
ルシリパラ元セイロン銀行労組委員長(現在は建設会社及び発電会社のコンサルタント・取締役)は、スリランカの公務員及び民間の年金制度の問題点について指摘した。
プリヤラル部長は出身労組の元委員長に加え、P&M委員会の世界・地域両議長、UNI Apro金融部会議長、委員会メンバーが遠路はるばる本シンポジウムに参加し、専門職・監督職に関わる重要なテーマについて有益かつ貴重な情報を提供してくれたことに感謝し、閉会した。
写真はFlickr参照